嘘つく君が愛しい -那智の葛藤-

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嘘つく君が愛しい -那智の葛藤-

思えば、朝から様子がおかしかったんだ…。 「おはよう、浩哉」 「はよ…」 「……………」 驚いた。 まさか、挨拶で返されるとは思っていなかったから…。てっきり、いつものように素直じゃない罵声を浴びせられるか、一睨みされてシカトされるかと思ったのに。 例の(俺が浩哉に強姦まがいなことをした)ことがあってからは、浩哉はそう簡単に俺と口をきいてはくれなかった。まぁ、それは予測していたことだからそんなにショックは受けなかったんだけど。むしろ、俺のことを意識してくれるんだとポジティブに考えて嬉しかった。 それに、口は聞いてくれなくても浩哉は授業をさぼるとき決まって屋上にやってくる。俺がいるということを知っていながらも。 少し離れたところに寝転んでは無防備な浩哉の姿を見て、嫌われてはいないと確信し、安心するのだ。 でも、今日の浩哉はおかしかった。 なにがおかしいって? 全部だよ、全部。 俺に挨拶を返すとこに始まり、授業を真面目に聞いている姿とか、屋上に来たとき俺のすぐ隣に座るだとか…いや、まぁうれしいんだけど。 でも、逆に心配になったりする。 明日ヤリが降るんじゃないかとか、浩哉はもう俺を放っておくつもりなんじゃないかとか…。まぁそんなこと思っているようだったら、もう一回襲うけどね。 俺はもう浩哉を友達としては見れないんだから。 でもあきらめるつもりはないし、いつか絶対に落としてみせるというのが俺の野望であって――…。 「那智、それ一口ちょーだい?」 「…………」 しかし、この場合、俺はどうすればいいんだろうか? なんだこの甘えたな瞳は!! なんだこのトロンとした妖しい表情は!! 襲っていいのか!?いやむしろ襲われたいのか!? 据え膳はしっかりと食べる性格だぞ、俺はっ。 「…浩哉、お前今日おかしい」 「はぁ?おかしいってなんだよ。いつもどおりじゃねぇか」 いやいやいや…。 ふん、と退け反りながらも俺の言葉に答えるところからおかしいんだって!! 小首を傾げ、呆然としている俺の手から飲みかけのジュースを奪うと喉をならしながら飲んでいく。 (か、間接キス…っ!!) あぁ…分かってる。 俺と浩哉はもう一戦を越えたんだから(無理矢理だけど)今更間接キスくらいで動揺するのは…って。でも、浩哉からってとこが重要なのだ。 「熱でもあるんじゃ…」 「っ…!!」 浩哉の額に触れようとした瞬間、その手が叩き落とされてしまう。パチンッと響いたその音に俺は驚いて目を見開いた。浩哉は俺をキッと睨みつけ、立ち上がる。 「触るな…」 「ひ、浩哉?」 突然、雰囲気の変わった浩哉に俺は動揺を隠せない。 なんだ…なんなんだよ…。 やっぱり、今日の浩哉はおかしい。 「俺はまだ、お前を許したわけじゃねぇからな」 「…………」 踵をかえして背中を向けた浩哉に、俺はかける言葉を見付けることができなかった。結局そのまま浩哉を見送って、浩哉は屋上からいなくなってしまった。 「…なんなんだよ」 先に話しかけたのは浩哉だし、触ってきたのも浩哉だろっ!? なんで俺が怒られるんだ。 あれか…今流行りのツンデレってやつか?んで今のはツンの方だったのか? 「ま、いっか」 たぶんそのうち、いつもの浩哉に戻るだろう。 たぶん…。 「はい、パスパス!!」 「……………」 只今合同体育の時間。 浩哉のクラスと俺たちのクラスでバスケ。 ちなみに俺は面倒なことは嫌いなので補欠にまわさせてもらっている。浩哉はというと、俺とは違ってむしろ自分から参加するタイプなんだろう。 一見、元気よくコートを走り回っているかのように見えなくもないんだけど。 「…大丈夫かよ」 足元フラフラ。動きが鈍い。せっかく回ってきたボールを落とす。 俺の目には明らかに不調に見えるというのに…。 「ヒロのやつ絶好調だな。負けるかも…」 隣にいた名も知らないクラスメートのそんな呟きに俺は眉を寄せた。いったいアレのどこが絶好調に見えると言うんだ。 いつもの浩哉なら今より動きはいいし、ボールを落としたりなどというミスはしない。スリーポイントからだって楽勝とか言いながら決めるのに、今はいくらかはずしている。 ちょっと、放っておけない事態になってきた。 「誰か交代して。俺が出る」 「おぉ!!点数引っくり返してこい!!」 「…………」 難無く交代を受け入れられ、複雑な心境を抱きながらもコートに出て浩哉のマークについた。ドリブルしながら真っ直ぐに俺の動きを観察し、どう出るか考えているらしい。 「珍しいな、お前が出るなんて」 「まぁ、ちょっと…ね」 濁った言い方をすれば首を傾げる浩哉。 額に浮かんだ汗で髪が肌に引っ付き、その姿はどことなく色っぽい。今すぐにでも押し倒したい気持ちを抑え込みボールを奪おうと手を出すが…そこは浩哉だ。そう簡単には渡してくれない。 「へっ、負ける…かよっ!!」 「あ…」 ひらりと手をかわされ、浩哉は俺のマークを抜けると速攻でランニングシュートを決めた。空をかいた手をブラブラとさせながら、得点番を見てみればすでに10点以上の差がある。 その大半の点数取得者は言わずもがな浩哉だった。 不調さえも感じさせない綺麗なフォームで点数を稼いでいる。今更その技術の高さに驚いたりはしないが、ほんのちょっと悔しい。 「にゃろう……ん?」 浩哉を見てみれば、フラフラとポジションに戻っていた。 やっぱり具合悪いんだ…。 笛が鳴り、次のゲームの開始を告げる。 やはり、俺のマークにつくのは浩哉らしくて普段滅多に見せない真面目な顔をしていた。 「浩哉…」 「なんだよ」 ドリブルしながら、なんとかマークを抜けようとするがそううまくもいかない。というか、つい気を遣ってしかう。 「お前やっぱ具合悪いんじゃ…」 「…………」 フラリ、と浩哉の体が前のめりに倒れそうになる。その顔は真っ青で俺は味方にパスをすると、すかさずその腕をつかんで体を支えた。 体が…熱い。 普通のやつならもうすでに歩けるような体温ではない。 「ちょ…那智っ!!」 「…………」 ヤジがとぶのも気にせずに、その体を抱きかかえると俺はその場をあとにした。相変わらず腕の中では浩哉が暴れているが、技術は負けていても力は負けていない。しかも、ただでさえ具合が悪いのだから…。 無言のまま歩いて着いた先は、保健室。 間の悪いことに、保険医はいなくて仕方なくベッドに浩哉を寝かせて無理矢理毛布を被せた。 「な…に、やってんだよ!!試合の途中だろっ!!俺具合なんか悪くねぇって!!」 「アホか。明らかに風邪だろ」 「心配性すぎなんだよ、那智は。知らないのか?何とかは風邪ひかないって言うだろ!!」 馬鹿だコイツ…。 んな迷信を信じてるヤツ、いねぇっつの。 「とにかく、俺は戻る。さぼりたいんだったら那智がベッド使えばいいだ…」 ベッドを降りようとした浩哉の体が、傾いた。 いい加減、おれも放ってはおけない。 「馬鹿!!たしかに馬鹿は風邪ひかないって言うけどアレは馬鹿は風邪ひいても気付かないっていう意味なんだよ!!」 「…………」 無言で俺を見上げる浩哉の表情は驚きそのものだった。なにしろ、俺は普段大声なんて滅多にあげない。 でも浩哉の前でこんなに取り乱すのは二回目だ。 今更、隠すつもりは…ない。 「風邪の時くらいおとなしく俺の言うこと聞けよ!!心配なんだよっ、俺はお前を放っておけないの!!」 馬鹿は風邪をひいても気付かないなんて迷信だと思っていたが、現に目の前に本物の馬鹿がいる。コイツは人に言われない限りきっとずっと気付かないままそこらへんで倒れるんだろう。それは俺が困る。 そんなことになったら気が気じゃない。 「心配性?上等。お前のためだったら何だってなってやる」 「なち…」 「だから…おとなしくしてくれよ…」 馬鹿みてぇだ俺…。 風邪くらいでこんなに取り乱して。 きっと妹が風邪をひいても、ここまでは言わないだろう。自業自得だ、なんて言って終りだ。 でも浩哉のことになると、俺は自制が効かないらしい。 「那智…」 うつ向いたままの俺に浩哉が声をかける。顔をあげてみると、そこには苦しそうに表情を歪めた浩哉がいた。 「ごめん。俺やっぱ…駄目、かも…」 「浩哉ッ!!」 フラリと完全に意識をなくした浩哉の体が倒れる。 持ち前の瞬発力でなんとか支えることはできたが、医学もなにもない俺がこういう時どうすればいいかなんてもんは全然分からなくて、俺は気が動転したまま、とりあえず保険医を内線で呼び出した。 「…………」 目の前で小さく寝息をたてながら眠る浩哉を見つめる。 保険医の手配によって浩哉は一度病院へ行き、家に戻った。が、あいにく誰もいないということで俺が看病することになったのだ。 「バカ浩哉…」 熱は40度近くあって、倒れてもおかしくはない状態であった。診断はただの風邪だが、本人が気付かないまま激しい運動とかしたせいで熱はあがってしまったらしい。 だから言ったのに…。 おとなしく寝てろって…。 「ん……」 身じろぐ浩哉の額からタオルが落ちる。 それを水へ浸し、軽くしぼってからまた乗せた。 熱い…。 ギュッ、と手を握ればそれは確かに熱かった。 「ん……な、ち…?」 「…おはよう」 ってもまだ夕方だけどな。 目を覚ました浩哉にほっとして、俺は安堵の溜め息をつく。ただの風邪だと聞いたくせに、頭には悪い状況しか浮かばなくて、はらはらしていたとこだ。 「…いえ……?」 「そう、家」 「な、んでぇ…、」 「運んだから」 どうでもいいこと気にするのな。 まぁ、その高熱じゃ仕方ないのかもしれないけど。 「頭いたい…」 「だろうな」 「…なんでそんなそっけないんだよ…」 「怒ってるから」 そう、俺は怒ってるんだ。 浩哉にもだけど、自分自信にも。 なんで朝のうちに家にかえさなかったんたんだよ…変なのは気付いていたくせに。帰してたら浩哉は今、こんなに苦しまなくてすんだかもしれないのに…。 「なに、に…?」 「浩哉…と、自分に」 「なんで自分なんだよ…」 「…………」 俺は浩哉バカだから。 これじゃ、心配性って言われんのも仕方ないな。 「…黙って寝てろ。かゆ食うか?」 「はなし…そらすな」 真面目な顔に、ちょっと驚いた。ゆっくりと体を起こす浩哉を心配しながらも、今の自分の思っていたことを素直に白状すべきか正直迷う。 だって…ひかれる可能性大だろ…。 「…………」 「…那智は嘘吐きなうえにシカトまですんのな」 重々しい浩哉の溜め息とそんな呟きを聞かされてしまっては、答えざるおえない。下手すれば明日からシカトされることになってしまう。 「…朝のうちに気付いてたらな、と…」 「は?」 「いや、だから。早く気付いてれば浩哉がこんな苦しい思いしなくてすんだのに…というただの自己嫌悪だよ畜生、気にすんな」 眉を寄せた浩哉の視線が突き刺さる。 ひかれたかな…。だから言いたくなかったんだよ…。 「…お前って…変なヤツ」 「…………」 そりゃ、どーも。 どうせ変人ですよ、なんて心の中ですねた。 「だって…お前なんも悪くねぇじゃんか…」 風邪のせいか、その瞳はうっすらと涙がたまっていて、なんだか…うん、エロい。話し方もたどたどしいし、顔がうっすら紅く染まって、息も荒い。 それはまるで…。 「…………」 押し倒したい。 いや、なんていうかもう…。最近浩哉がなかなか口を聞いてくれなかったせいか、浩哉パワーが不足してんだよ、きっと。これは浩哉が悪い。俺は悪くない。 だって男の子だもん。 「うゎ…キモ…」 自分で思っといて、キモイと正直に思った。 「は?」 「いや、独り言…」 視線を泳がし、目線をそらす。 なんで結構いいシチュエーションなのに俺ってこんなんなんだろ…。 「…那智」 「ん?」 「ありがと…」 「…………」 うっすらと笑みを浮かべ礼を言う浩哉。 ズキュン、となにかが胸に突き刺さった。 改めて風邪と酒の力ってすごいと思う。いや、今は酒入ってないけど、風邪の時までこんなに素直になるものなのか?とりあえず今の浩哉は、あの日と同じ状態だ。 自分の思ったことをそのまま口に、態度に示す状態。 「なぁ、浩哉」 だから、チャンスだと思ったんだ。 浩哉と和解できるチャンス。 「浩哉は俺のこと好き?」 「…………」 直球すぎたか? でも単純馬鹿な浩哉にはこれくらいがいいだろう。告白するまで俺の想いに一切気付かなかった浩哉だ。遠回しに言えば言うほど、きっと話しは論点からずれていってしまう。 「……分かんねぇ」 しばらく考えたような様子を見せたあと、浩哉は小さく呟いた。 「だって…お前、俺に嘘ついたもん…」 「…………」 今更ながら、あのつまんない嘘をついたことを本気で後悔する。別にラブホ初めてじゃないと言ってもよかったんだが、あの時はあぁ言うしか考え付かなかった。浩哉をどうやって中へ連れていくかしか考えていなかった俺には。 もしかしたら、素直に告白してアタックし続ければもっと早い段階で浩哉を落とせていたかもしれないのに。 しかし俺は、その浩哉の言葉で確信した。 浩哉は、確実に俺に想いを寄せている。 ただ、戸惑っているんだろう。浩哉は誰よりも嘘や偽り、約束を破ることを嫌う。だから、嘘をついた俺を好きだということが認められないでいるんだ。 「じゃあ…言い方変えるけど……またあんなこと、俺としたいって思える?」 「あんなことって…」 「セックス」 「……………」 ねぇ、浩哉。 お願いだからうなずいて。 そしたら俺は、もう一度君に想いを告げて、君を完璧におとして見せるから…。 「…嫌だ」 「……………」 俺の願いとは裏腹に、浩哉はハッキリと言った。 やっぱり…駄目か。 「だって…いてぇもん…」 「そっちッ!?」 「は?」 「あ…いや」 俺とセックスするのは痛いから嫌であって、相手的には問題ないってことか?いやでも、俺が相手で痛かったから嫌なのか?あれ?それって結構傷つく…な。 やばい、泣きそうだ。 プライドが傷付いた。 「那智?」 「なに…」 「なんで泣きそうな顔してんだよ」 「泣いてねぇ…」 浩哉のせいだよ、馬鹿。 俺は精神的に大ダメージ受けたんだよ。 「べ、別にお前相手が嫌ってわけじゃないんだぞッ?ただ、次の日学校きつかったからで…」 「ごめん。俺へたくそだから」 ちょっと皮肉っぽく言ってみると、浩哉の顔が曇っていってなんだかおもしろかった。焦ってるのが見え見え。 「だからー、気持ちよかったには気持ちよかったんだけど…なんか、はずいじゃんか…次の日とか」 「…………」 あれ?なんか…脈あり? 「気持ちよかったんだ…」 「う、うん…」 「恥ずかしかったの?」 「あ、当たり前だろッ!!」 顔を真っ赤にして叫ぶ浩哉。これはもしかするともしかするかもしれない。 「じゃあ、次の日学校じゃなかったらいいわけ?」 「っ………」 一気に、浩哉の体温は上昇してしまったようで、顔は紅く染まった。 確信を得た俺は、急に強気になり笑みを浮かべる。その笑顔に浩哉は何かを感づいたのか引きつった笑みを浮かべた。 「ねぇ、浩哉…」 「な、なんだよ」 「風邪、きつくない?」 いきなりなにを言い出すんだ、的な浩哉の視線が向けられる。なんとでも思えばいいよ。 俺はもう、この先のことを考えただけでルンルン気分だった。 「そりゃ、まぁ…」 さっきよりは断然マシだけど、と付け加えられる前に俺は浩哉の上に乗っかる。浩哉はというと、状況がつかめないままパチクリとその大きな瞳を数回瞬きさせた。 「浩哉はさ、風邪を他人にうつすと治るって話し、知ってる?」 「そりゃあ…有名だもんな?俺、前妹にうつして治したことあるし」 「じゃあ、どうやって人にうつすか知ってる?」 「へ?ただ咳とかそいつに向かってすればいいんじゃないの?」 お前、妹にそんなことしたのか? あぁ、妹さんの怒る顔を容易に想像できるよ。 うちの妹にそんなことしたら確実にお返しがやってくる。倍なんてもんじゃないお返しが。 「俺が治してあげようか?」 笑みを浮かべたまま、そう言うと浩哉はいぶかしげに眉をひそめて首を傾げた。 「なに…お前医者なわけ?」 「いや、違うけど」 「じゃあ、お前に向かって咳すればいいのか?」 「いや、それは是非とも遠慮したいよ…」 なんだか、浩哉とはなすと自分のペースが保てなくなる。まぁ、そんなゴーイングマイウェイな浩哉に惹かれたんだが。俺のペースを崩すヤツなんて、浩哉以外に妹しかいない。 つまり浩哉に出会うまでは、身内の妹以外素の俺と会話できるヤツなんていなかったのだ。 「じゃあ、どうやって治すんだよ」 口をとがらせて呟く浩哉の頭を撫でる。 今の学校に入って良かったと思える自分がここに在るのは浩哉のおかげなんだ。うわべの俺で満足しているクラスメートなんて、友達なんて言えない。 だから、高校に入って…いや、中学の頃から俺はひねくれてしまったのだから、浩哉はひねくれた俺に出来た最初で最後の友達なんだ。そんな友達という関係も、俺自身が壊してしまったのだけれど。 でも、浩哉を好きになって後悔なんてしたことはない。浩哉とは、友達以上の関係になりたいと俺は切に願っている。 友達なんて言葉なんかじゃ言い表せないほど、浩哉のことが好きで、大切だから…。 「俺が、治してあげる…」 「………」 「浩哉?」 無言のまま俺を見上げる浩哉に、俺は疑問を覚えた。だっていつもならこんな体勢嫌がって抵抗するはずなのに…。しかし今の浩哉は無抵抗も無抵抗。 ただベッドに押し倒されて寝転んでいる状態だ。 「浩哉?」 反応のない浩哉のその頬にそっと手を当てると、浩哉は驚いたように目を見開いて顔を真っ赤にさせる。 「っ…!!」 「え…ひ、浩哉?」 顔をそむけ、顔を腕でかくす浩哉の反応に、俺は戸惑いを隠せない。 「…ずりぃ……」 それはまるで…。 「っ、なんだよッ!!治すなら早く治せよ!!」 そんなに見んなッ、と叫ぶ姿に俺もつられて真っ赤になってしまう。 恥ずかしそうに顔を背ける浩哉の頬に手を当て、クイッと俺の方へその顔を向かせるとその目は俺から見ても分かるほど欲にまみれていて、上気していた。 驚いてつい浩哉をじっと見つめてしまう。 まさか浩哉が、今の会話の中でこれから何をするかなんてわかるとは思っていなかったから…。 もしかして…浩哉も期待していてくれていた? 「なにしても…怒んない?」 そう尋ねれば、浩哉はさらに真っ赤になる。 「っ…、怒んねぇよ…」 「浩哉…」 「ん…っ…」 嬉しくなって、俺はその唇を奪う。 最初は触れるだけで、それはどんどん深く、濃厚なキスに変わっていく。 今まで、さんざん想いを押し付けてきた女とキスしてきたけど、やっぱり好きなヤツとするキスは全然比べ物にならないくらい気持ちよくて…。 「んんッ、はっ…な、ち…苦しっ…」 気が付けば、夢中で浩哉にむしゃぶりついていた。ドンドンと胸板を叩かれ、ようやく俺はそれを解放する。 荒く息をする浩哉の首元に唇を落とせば、くすぐったいのか感じているのか…浩哉の体はピクリと反応した。 「浩哉…」 耳元で囁けば、ひゃっ、と短く鳴いた。 「下…触っていい?」 「っ、聞くな、よ……」 「ははっ…」 恥ずかしそうに浩哉は呟いた。まぁ、分かってて聞いたんだけどね。 浩哉は知らないかもしれないけど、俺って結構Sなんだよね。だから、人が痛がる顔とか苦しむ顔が好き。今まで相手してきた女たちはそうやって調教していったけど…浩哉は…。 「できるだけ…優しくするね」 「あ、たり前だ…」 痛がらせたくない。 浩哉の苦しそうな顔なんて、見たくない。 できれば、浩哉の気持ちいいことだけしてあげたいけど、そこは残念ながら俺の理性がもたないから無理。 それに…ちゃんと一つになりたいし…。 「ふ、あッ……」 なんの前振りもなく、半だちのそこに触れれば浩哉はかわいい声をあげた。感じてくれてるということが嬉しくて、俺は性急にそこを撫で上げる。 一度イかせれば、浩哉の羞恥心も半減するだろうし…。 そう思った俺は、浩哉のパジャマのズボンを下着と一緒にずり下ろし、それを口にくわえた。属にいうフェラってやつ。 舌を巧みに動かし、絶頂へと導けば、ぐったりとしたその体。もう理性もなにもないんだろう。浩哉は上気した顔で俺を見つめ…懇願した。 「はや、く…」 それは非常に可愛くて、俺のオスもばっちり反応した。 浩哉の要望に応えるべく、本来排泄器官としてしか用途されないそこに手を伸ばして、浩哉の精液に濡れた指を一本挿入させてみる。やはり最初は気持ち悪いのか、その顔は痛みに歪んだ。 でも、拒んだりすることは一切なくて浩哉はただその気持ち悪さに耐えているだけ。一刻も早く快感に溺れさせてやろうと、根本まで埋めさせると第一関節を曲げ、前立腺を刺激する。 「あっ…あぁ…」 自分じゃ試したことないから分からないけど、やはりそこは余程の快感をもたらしてくれるらしくて、浩哉はただその快感にあえぐばかりだった。指一本を馴らしたところで、もう一本と次々にその穴へと挿入していく。バラバラと動かせば、浩哉は俺の背中をつかんで引き寄せた。 「んっ…も、い…からっ、早く…」 「…………」 随分と積極的になったものだと感心する。熱のせいか、浩哉が淫乱なだけなのか…案外どっちも作用してたりして。 まぁどっちでもいいけど。 いつも素直になってくれない浩哉が、今はこんなにも俺を求めてくれているんだ。それは純粋に嬉しかった。 俺はそり立ったそれを取り出すと、浩哉の秘部にそれを当てがう。ビクリと反応する体。 俺は浩哉の唇にキスをおとした。 「んあぁっ!!!」 浩哉の体から力が抜けた瞬間に、己を一気に挿入する。十分に馴らしたから切れることはないと思うけど、やっぱり心配でしばらく動けなかった。 「浩哉…動くよ」 「う…ぁ…っ」 コクコクと首を縦に振るのを確認してから、律動を開始させる。 背中に回された腕の力が増して、爪を立てられるがそんな痛みなんて気にもならないほど熱のせいか浩哉の中は熱くて気持ちよかった。律動の動きが早くなり、先走りを流していた浩哉のオスが欲を放つ。それと同時に、俺も中に射精してしまった。 「浩哉…」 射精の気だるさに、その体に覆い被さるけども、浩哉の反応はない。 案の定、浩哉は気絶してしまっていた。 ぐったりと投げ出された体に少しだけ罪悪感が芽生える。 「浩哉…ごめんな」 無理させた。 これで風邪悪化させたりでもしたら、俺はもう土下座で謝らなきゃいけない。それでも浩哉は許してくれないだろうけど。 「愛してる…大好きだよ」 その額にキスを落とし、後処理をすませたあと俺は浩哉に沿い寝。 となりで眠る浩哉を抱き締めて、目を閉じる。 なんだか…初めて幸せを感じた瞬間だった――…。 「おにーちゃんッ!!!」 バン!!と乱暴に開けられた扉と妹の怒声に俺は飛び起きる。何事かと思い、妹を見てみると相当焦ってるようで…。 「早く服着てよっ!!おかーさん帰ってきたってば!!」 「へ?」 服? 妹の言葉に疑問を抱き、俺は自らの体を見た。それはもう見事に素っ裸で、布団の中の感覚からして恐らく下着もつけてない。 「なっ…なんで…!!」 もそっ、と隣で何かが動く感触に俺の顔はサーッと青くなる。いや、実際見てないから分かんないけど、そんな感じの顔をしているのは確かだ。 隣でぐっすりと呑気に眠っているのは那智。 ヤツも上下裸…だと思われる。 なぜなら、俺にはしっかりと記憶が残っていたからだ。どうせなら、風邪だったんだから忘れていればいいものを、なぜか鮮明に思い出すことができる。 那智との行為を…。 「…またやっちまった」 がっくりと肩を落とす俺に、妹の怒声がかかる。 「っもう!!そんなこといいから早く服着てって――」 「ただいまー」 階下から聞こえてきた声に、俺は焦った。 いつもなら真っ直ぐリビングに向かうはずの足音も、なぜか今日に限って階段を上ってくる。 「浩哉ー起きてるー?」 ギャーッ!!と、内心叫びたい気持ちでいっぱいだった。しかしそんな暇もない。 この状況を母さんに見せるわけにはいかない。 「那智!!那智、起きろッ!!」 「ん〜…?…浩哉?」 寝惚け眼で俺を見つめる那智。とりあえずコイツが腕をはなしてくれないと俺は服を着ることもできないのだ。しかし那智は今の状況を理解していないのか、余計にギュッと抱き締めてくる。 「おはよ」 あろうことかそいつは俺の口にキスまでしやがった。一気に顔の温度が上昇。 しかしすぐに我にかえり、俺は小声で叫んだ。 「馬鹿なことやってねぇで早く離せーッ!!」 結局…。 妹の母足止め作戦のおかげで、おれたちの部屋は見られなくてすんだ。というかこの状況を母に見られたら俺は家出する。 恥ずかしくって顔もあわせられなくなってしまうのだ。 那智はというと…。 「ゴホッ、ごほっ」 見事に俺の風邪を貰い、俺の治療に役立ってくれたのだった。 「危なかったね…」 疲れた様子で呟く妹。俺は複雑な心境だった。 確かに母に見られないように協力してくれたのはありがたかったのだが、結論を言えば妹にはばっちりみられてしまったということになる。あの行為の後の風景を…。 「あ…りがとう、ございました」 今度何か奢ります、と小さく呟けば、当然よ、という言葉が返ってくる。というか、なぜに妹は仮にも兄の俺のあんな姿を見て平然としていられるのだろうか。 チラリと横目で妹を見てみれば、妹もこちらを見ていたらしくバチッと目があってしまった。 「おにーちゃん」 「な、なんでごわすか…」 「…なにその言葉遣い。まぁ、いろいろ気にしてるようだけど、大丈夫よ。私偏見とかないし、なにより頭腐ってるし」 「腐ってる?」 腐ってるわりには結構テストでは高得点とってくるじゃねぇか。妹の頭が腐ってるとしたら俺の頭はなんだ?腐ってるを通り越してんのか? 「まぁまぁ。分からなくていいよ。むしろ分かるな。純粋なままの貴方でいなさい」 「はい…」 肩をポンポンと叩かれ、妹はそのまま部屋を出ていく。結局何が言いたかったのか俺は理解することができなかった。 「…つか、あの情景を見て俺を純粋だといえる妹はなにもんだ…」 それは一番の謎だった。
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