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嘘つく君が愛しい
人がざわめく街の中。
そこに俺は立っていた…。
「ねぇねぇ、君かわいいじゃん♪誰かと待ち合わせ?ならすっぽかして俺と遊ぼうよ」
なんとも古臭いナンパ野郎が声をかけてきた時は、殺してやろうかと思った。馴れ馴れしく肩に触れ、無理矢理に引っ張ろうとするが…。
「離せよ、インポ野郎♪」
そんな力で連れていかれるほど、俺はヤワじゃない。捕まれた腕をグイッと引っ張ってみると、相手は驚いたように体制を崩し、呆けたような表情でこちらを見る。
俺は努めて爽やかに返した。
「さっさと薄汚い手を離せって言ってんだよ。聞えねぇのか?童貞君」
「なっ…!!」
顔を真っ赤にしながら言い返そうとしてくるが、言葉が出てこないのか口をパクパクと、まるで金魚のように動かすばかり。俺は呆れて溜め息をついた。
「図星か?ったく、古臭いナンパしやがって…。言っておくけどなぁ」
さっきから、いったいこのセリフを何十回繰り返したことだろう…。
「俺は男だっ!!」
「…………」
ぽかーん、と口を開けたまま俺を見つめてくるそのナンパ野郎は、しばらくしてから「信じられない…」と小さくぼやきながら俺から離れていく。
「はぁ…」
なんなんだ、どいつもこいつも…。
まぁ…確かに女もんの服着てる俺も悪いんだろうけど…。
そう、俺の今の服装は雑誌の特集でやっていた女もんの服装だった。カツラまで被ってたら、そりゃ女に見えなくもないかもしれねぇけど…ナンパしてくるヤツの気がしれない。
ヒラヒラと揺れるピンクのスカート。
美少女がはいていたら、そりゃ俺だってナンパでもしてみようかなぁ、という気にもなる…が!
俺みたいな男顔が着ていたって、どーもそういう気分にはどうしてもなれない。
「っ…おせぇなぁ…」
そうだ。
そもそも、俺がこんな朝早くから気持わるい野郎共にナンパされるのも、ジロジロと回りの目が気になるのも…全部…全部。
「てめぇのせいだ」
やっと現れたその男は、悪びれた様子も見せずに俺の格好をジロジロと嫌な目付きで見てくる。
「いやぁ〜…似合うとは思ってたけど…。ここまで似合うとは…」
ひゅ〜、と鳴らせもしない口笛のマネをし、ヤツは俺の手を握ってきた。
「なっ!?」
慌てて振り払おうとしたが、俺よりも難いのいいそいつに敵うハズもなく…。
「だ〜め」
あえなく、その手を絡められてしまう。
「今日一日、俺の言うこと聞いてくれるんでしょ?浩哉」
「……………」
あ〜ぁ…。
俺ってば、なんであんな約束なんかしちゃったんだろ。
「夕刻までだよ。それ以上は聞かねぇぞ、那智」
そんな手遅れな後悔をぶつぶつと心の中で呟きながら俺は那智に手を引かれたまま、街の中を歩いた。
こんなことになったのは、昨日の学校でのことが原因だった。
いつもの如く、俺は職員室にて先生がた3人に囲まれありがた〜いお説教の真っ最中。
もちろん本当にありがたいなんて思っちゃいない。
「先生…」
「なんだ?そんな暗い顔をしてお前らしくもない。ようやく反省してくれたのか?」
ここで嘘でも反省した、とか言っていれば、先生たちも解放してくれたんだろうけど…正直者の俺はつい口を滑らして本音を述べてしまっていたのだ。
「早く帰らねぇと、ドラマ始まっちまう」
明石浩哉。
ぴっちぴちの高校2年生…って、高校2年生でもピチピチだよな?
好きなものは甘いもの。
嫌いなものは限りなく多い。あえてあげるなら、今まさに受けているお説教。
あと勉強。
そして、今ハマっているのが、連載ドラマ。
1話たりとも見逃せねぇというそれは、なぜか先生たちの怒りをさらに増幅させてしまった。
「馬っ鹿者!!!ちっとも反省しとらんじゃないか!!」
「反省してるなんて言ってないけど…」
「お前は…2年生になれば少しは大人になると思えば…」
「大人になったよ!!寿司にわさび少量なら食えるようになったんだから!!」
「嘘でも反省してると言えば帰してやるのに…先生たちだって暇じゃないんだぞ?」
「それ、先生が言っちゃダメだろ。ってか、暇じゃないならこんな無駄なことしないで帰してくれればいいのに…」
律儀に、一人一人にわざわざ返事していたら、さらに先生たちは怒りを増幅させて説教が長引いてしまう。
結局、先生たちに解放されたのは8時まわった頃になってしまっていた。
学校から家まで徒歩1時間で帰れるワケもない。なんせ、いつもスクバで登下校しているくらいだから。
しかしスクバもなくなり、俺は何とか走って帰ってドラマを何としてでも見ようと意気込んだ……その時だった。
キキッ――
一台の自転車が俺の前でぴたりと止まる。
「なにやってんの、浩哉」
「那智!!グッドタイミングッ!!」
その自転車の主は、眉を寄せてこちらを伺うように見てきた。
「なに…。俺、早く帰りたいんだけど…」
「そんなこと言わないで〜。乗せてってよ〜」
甘えたようにすがりつくと、那智は大きく溜め息をついた。
「こんな時ばっかり甘えやがって」
くしゃくしゃと、明るいブランに染められた髪を撫でられる。俺は目を輝かせて、那智に抱きつく。
「さっすが那智!!さぁ、そうと決まったらレッツゴーッ」
「ちょっと待て」
自転車の後ろに座ると、俺は上機嫌で足をブラブラとさせるが、那智がタンマをかける。
「お前は俺になんの得も与えないつもりか?」
「得?俺をこんなに飼い馴らせるのは那智しかいないんだよ?それだけで得じゃん」
俺とこんなに仲良くできるのは、高校1年生の時にたまたま同じクラスだった久遠那智しかいない。
といっても、別に親しく遊んでいたワケじゃないけど。
ただ、サボり場が一緒で話しているだけの存在。
「それはお前が勝手になついたんだろ。というか、お前はどんだけナルシストなんだよ…」
「失礼なヤツだな〜。ナルシストっていうのは『あはっ、俺ってかっこいー』とか『この角度、さいっこー♪』とか言う奴を言うんだよ?」
俺はそんなこと言わない。
っていうか、容姿にそこまで自信を持てない。
「いや…十分ナルシーだと思うけど…」
「じゃあ、何だよ。俺は何をすればいい?」
「そうだな…。じゃ、明日遊び行こうよ」
「遊び…?」
そんなんでいいの?
「俺、奢るほど金持ってないよ…?」
奢るほど…というか、自分が遊びに行く金もない。いわゆる金欠というヤツだ。
「大丈夫。俺が奢るよ」
「…それでお前に何の得があんの?」
おいしい…。
おいしすぎる話…だけど、逆に胡散臭い…。
「別に。ただ浩哉と遊びに行きたいだけだよ。ただ…我儘聞いてもらうことになるだろうけど」
「我儘?なに、それ…」
「それはメールするよ。じゃ、レッツゴー」
風を切り、自転車が走り出す。俺は振り落とされないように那智にしがみつき、笑った。
「あはは、さいっこー♪」
「やっぱナルシー?」
「黙んなさい!」
ポカッ、と那智の頭をこづいて俺は風を感じながら目を閉じた。
無事にドラマにも間に合い、俺は上機嫌でチョコレートをかじりながらドラマをみていた。
「本っ当、那智ちゃんに感謝♪」
家についたのはギリギリ9時前。滑り込みセーフで俺はリビングのソファでくつろいだ。
ドラマも終わり、携帯でもいじろうかと手を伸ばした瞬間、それは鳴った。
「メールだ。那智かな?」
すぐさまメールを開き、俺は中身を確認………した途端に固まった。
「…………由希〜」
「なに?お兄ちゃん」
同じくリビングでくつろいでいた妹に声をかけて、俺は真顔で呟いた。
「女装って…なに?」
「はぁ?」
いや…意味はちゃんと分かってる!分かってるんだけど…。
【明日女装して時計台の前ね】
「…………」
頭いかれたんだろうか?
「女装は男が女ものの服を着ることでしょう?授業サボってばかりだからそんなことも分からないのよ」
「なんでお前が俺のそれを知ってるんだよ…」
「先生たちが職員室で話してたのを聞いたのよ」
今日の説教のことか…。
先生たちってやっぱ暇なんだな。
「とりあえず返信しなきゃ…か」
とりあえず【ふざけんな】と送ってみた。
返事は1分も経たないうちに帰ってきてしまう。
【約束だろ】
「…………由希〜」
「なに?お兄ちゃん」
「明日、服貸してくれ」
「はぁ?」
なんかさっきと大して変わらない会話になってしまった気もするが…いいや。
「なに?女装するの?」
なぜか目を輝かせて聞いてくる妹。
お前も暇なんだな。
「しょーがないだろ。約束…しちまったんだから」
俺のモットーは、約束破るべからず、だ。
それは小さい頃から父さんに言われ続けた言葉で、俺はいつの日からか約束という言葉に弱い男になってしまっていた。
「約束」と言われれば、破ることはできないのだ。
「そっかぁ!ちょうど暇だし、お兄ちゃん!!部屋行くわよ〜」
気乗りしない兄を引きずる妹。
なんでお前はそんなに楽しそうなんだ、と聞いてみれば丁度、俺にも服を借りたいと思っていたらしい。
…なんで?
「ミキがね〜、男装して遊びに行こうって言ったのよ。なに考えてんのか知らないけど…。お兄ちゃんと服のサイズ一緒だし良かった」
ミキとは由希の親友のことである。
なんだ…ミキちゃんも那智と同じく頭イカれちまったのか…。
「さぁ、お着替よ〜!!」
「おー…」
こうして、夜は更け、今の現状に至るのである。
「それ、妹さんの?サイズ一緒なんだね」
「だまらっしゃい」
気にしていることを突かれ、俺は那智の口を閉じさせた。
1個違いの妹とはなぜか身長が大して変わらない。つまり、俺にはまだ成長期がきていないということだ!!
中学の時から1センチも変わっていないということはあえて伏せておこう。
「ま、いいや。おかげで俺はこんな可愛い姿の浩哉とデートできるんだし」
「…でーと?」
男同士でなにがデートだ。それは一度も体験したことのない俺への嫌味か?
「実は俺さ…好きなヤツできたんだよ」
「へぇ〜…」
あぁ、そうですよ!!
彼女なんて一人も出来たことないですよーだ!!
「んでこれは、予行練習?みたいな?」
「みたいな…って…。なんで男の俺を相手に予行練習なんかするんだ」
「女の子だと変な期待させたら悪いだろ?だから、浩哉。浩哉なら可愛いし雰囲気も出るかと思って」
「へーへー、お優しいことで」
那智はモテる。
そりゃもう、嫌味なくらいにモテる。
以前、サボり場の屋上で俺と二人だけの時にも告りにきたヤツもいた。放課後、うちの学校のマドンナがこいつに告白したという噂も聞いたことがある。
そりゃ…顔はいいかもしんないけど、人間中身だろ。別に那智の性格が悪いって言ってるわけじゃないけど……俺は教室で笑っている那智を見たことがない。
いや、他のヤツと楽しそうに話しているところを見たことがないんだ。
「どこがいいんだか…」
俺はつい本音を口に出してしまって、ハッとした。口を塞いだときにはもう遅く、ほっぺたがぐにょーんとゴムのように伸ばされた。
「そんな悪口を言うのはこの口かな?」
悪魔的な微笑みを浮かべながら、どこまで伸びるかな〜と呑気なことを言いながら俺のホッペを伸ばす。
「いひゃい、いひゃい!!はなひぇ!!」
「…………」
「ひゃひ?」
「あぁ…ほら、よっ」
「ぎゃあっ」
最大限まで伸ばされ、パッと手を離されれば痛さ倍増。
「いってぇな、この野郎!!」
思わず拳をふりかざすが、難無くそれは那智に止められてしまう。
「はいはい。浩哉は今女の子なんだから、そんな汚い言葉使っちゃいけません」
「女じゃねぇえーーーっ!!!」
叫びも虚しく、那智には簡単に流され、俺はさらに人の視線を集めて居心地悪くなってしまっていた。
「まずはショッピングだな」
「次は飯」
「遊園地」
「公園」
「ラブホ」
次々といろんなところを回るなか、俺は最後のだけには是非とも突っ込みをいれたかった。
「ちょっと待て」
「ん?何か問題でも?」
「問題でも?じゃねぇよっ!!!ありすぎだ、問題!!」
「12×16」
「え?え〜っと…」
16が10個で160だろ…あと16が2個だから…。
「192!!!」
「ピンポーン♪正解〜」
「よっしゃっ!!!…って違〜う!!」
なにのせられてんだ俺は!!?
「なんでラブホなんだよ。お前は初デートで彼女をヤっちまう気か?」
「まさか。別に初デート設定なんて言ってないだろ?ただ、予備知識だけでも入れとくために、下見しようかと思っただけだよ。お前もしといた方がいいんじゃないのか?カッコ悪い、なんて言われたくないだろ?」
「………」
…下見だ。
下見のためだ。
将来できた彼女のために下調べに行くだけだ!!
「行く」
「そうこなくっちゃ」
俺はくたくたになった体を那智に促されるままに歩かせる。
なんで女ってもんはハイヒールなんか履くんだ?足が痛いだけじゃねぇか…。
「お〜い、浩哉?」
「ん?」
呼ばれるままに振り返ってみると、那智が手をふっている。どうやら、いろいろ考え込んでいるうちに通りすぎてしまったようだ。
「よし、入るぞ」
ゴクリ、と喉をならし、そのピンクの建物に足を踏み入れる。
緊張しながら、俺は那智の後についていき、そして気が付いてみればすでに部屋にいた。
「案外、簡単なんだな…」
そんな素直な感想をもらし、俺は大きいダブルベッドに腰かけた。
部屋が綺麗だった、なんて、よく友達に聞いてはいたがここまで綺麗とは…。うん、自分の部屋にしたいぞ。
「浩哉〜、飲む?」
「飲む飲む〜♪」
那智が取り出してきたのはビールだ。
俺は無類の酒好きなので、遠慮なくそのプルタブをひいた。那智も、ビールに口をつける。
「そういえば…酒好きとは聞いてたけど浩哉って、ザルなの?」
「いや、結構弱いよ。ゲコってほどもないけど。酒好きだけど、いっぺんにたくさん飲むのは出来ねぇんだ」
まぁ、母さんがゲコだから仕方ないんだろうけど。ちなみに、由希は父さんのザルの血をうけついでいるからかなり強い。飲み比べをすれば、必ず負けてしまう。
「ふ〜ん…」
「那智は?ザル?」
「いや、滅多に飲まないし…普通なんじゃない?」
「じゃあ勝負しようぜ!!」
由希以外と飲み比べをするのは初めてだから、俺は初勝利できるかもと上機嫌で言った。那智は少し悩んだ末、「いいよ」と返事をかえす。
「よっしゃ」
そうして、俺たちは二人だけの飲み比べを始めたのだった…。
「ふへへ、降参か?那智」
「その言葉、そのまま返すよ」
なんだとこのヤロー。
俺が降参なんかするわけないだろ〜。
と思いつつも、俺はすでに足元フラフラで…那智はそんな俺を見ながら余裕ぶっこいていた。
「にゃろう…テメェやっぱザルじゃねぇか!!」
「違うっての。浩哉が弱すぎるんだよ」
そーか…俺が弱いだけか〜…。
「もういいや。負け負け、こうさ〜ん!あはは〜」
おもしろくもないのに、なぜか笑いが止まらない。酔ってるわけでもないのになんでだ?
「あっつい…」
バサッ、と俺は豪快に上の服だけを脱ぎ捨てると、その広すぎるベッドにダイブした。フワフワして、なんだか気もちぃ…。
「浩哉…お前はそれ、誘ってんのか?」
「えへへ〜。残念ながら俺には女みたいに入れる穴なんてないですよぉ〜」
あ…この服、由希のだったんだ。汚したりくしゃくしゃにしたら怒られるよな。
「…おい、何やってんだお前…」
「へ?別に〜脱いでるだけですけど〜?」
ポイポイ、と結局はスカートも脱ぎ捨て、俺はカツラを取った。
「あっちーんだよな、コレ。短いのにすればよかった」
俺がつけていたのは、腰までも長さがある茶髪のカツラだ。歩くたびに、首にさわさわと当たる感覚も擽ったくて、俺はいっそ結ぼうかとも考えたくらいだ。
「穴…あるよ。浩哉にも」
「え?ぁ…っ!!」
ドサッ、と那智の体が俺に覆い被さり、その手がトランクスの中へと侵入してくる。撫でるような手付きに、俺の体はピクリと震えた。
「ここに、ね」
「あ、そっか〜。ケツがあったか〜」
そういや、俺にも穴あったわ。那智には悪いけど、決してセックスには使わない穴だけど。
「んっ……!?」
そんなことを思っていると、那智が俺の穴に指を侵入させてきた。異物感があって、俺は身をよじる。
「な…ちっ、なんか手ぇヌルヌルしてる…あっ」
「ん、そこにローションあったから使ってみた」
「あ、ローション…やっ!!?」
顔だけを机に向けてみると、穴に入っていた那智の指がどんどん奥に進み、ある一点を突いた。
「あっ…や、那智ィ…。汚いってそこは…あぁっ!」
「…ココか」
至近距離にあった那智の口が呟く。俺は体を震わせながら首を傾げてみせた。
「男にもあるんだよ。穴ん中に感じるところが」
「へ〜…」
そうなんだ。
男はケツで感じんのか…。でも俺的には…。
「こっちがいい…」
残っていた那智の左手を掴み、俺は自分のそこへと触れさせる。既に起ってしまっているそこは、触れてほしそうにピクピクしていた。
「はは、感じちゃったのか。いいよ、今日はいろいろ我儘きいてもらったから浩哉の我儘もきいてあげる」
「?」
そう言うと那智は、なぜか俺のほっぺにちゅーをした後、離れた。そして、俺のぱんつを一気に脱がせると、ソレに手を沿えて口を近づけさせる。
「あっ…!!ふ…」
那智は躊躇することもなく、それを口に含んで舌を駆使しながら絶頂へと導いていく。
「はっ…ぁ、…あぁ…那智…」
クチュクチュとヤらしい音が部屋に響いて、俺は自分のそれをくわえている那智をあえぎながら見つめていた。
「な、ち…。も、いいから…でる…っ」
「出していいよ」
「だ…め、だって…。あ…あぁっ!!!」
俺は達した。
あろうことか、那智は俺の白濁を飲み込んでしまい、それを見ていた俺の体はかぁ、と熱くなっていた。
「ば…ばっかじゃねぇの!?んなもん飲んで」
「大丈夫大丈夫。浩哉のだし」
「っ……!!」
恥ずかしくなって、俺は毛布の中へと隠れた。
フェラ…してもらったから、俺もしなくちゃいけないのかな…?
うわ、同じ男のもんくわえるとか考えられねぇ!!で、でもでもっ、那智にしてもらったんだし…。
「ねぇ…浩哉」
「!」
ごそごそと、毛布の中に那智が入ってきて、俺の手はソレに触れてしまった。
「俺も…限界なんだけど」
「……俺が…すんの?フェラ…」
クラリ、と目眩の感覚を覚えた。
だってだって、触って気付いたけど、コイツ俺のよりもデカイって!!
「いや、浩哉は何もしなくていいよ」
ニッコリと微笑む那智。
その笑顔が、今の俺にはなぜか怖かった。
「なにも…しなくていいの?ホントに?」
「うん。あと、その上目使いはやめてね、抑制きかなくなるから」
またまた微笑むが、さらに恐怖を増していた気がするのは気のせいだろうか…。
「じゃあ…那智。ソレ、どうすんの?」
おずおずと尋ねてみれば、那智は手をスルリと俺の足の付けねに伸ばし、穴に触れた。
「ここ、使わせて?浩哉は何もしなくていいから、さ」
「…………」
もしかして…ここに入れる気か?
でも、俺は何もしなくていいんだよな?ただ入れるだけなら…フェラするよりマシ…だよな?
「いいよ」
「やりぃ〜」
ごそごそと、那智は毛布の中から出ていき、下半身部分にかかっていたところだけを捲り上げた。
「っあ…!!?」
ヒヤリ、とした感触に俺はビクッと体を跳ねさせる。
きっとこれはローションなんだろう。明らかに水とかの感触ではないし。
「ひゃっ…ぁん…」
足をM字に広げられ、俺は思わず足を閉じようとしたが、那智の力には敵わず仕舞いだ。仕方なく、されるがままに穴に指を突っ込まれて俺は声を堪えていた。
「浩哉…声、聞かせてよ」
「っ………ああん、やっ…」
少し考えた末、俺は鳴きたいように鳴いた。思えば、今日は那智の我儘を聞いてやるっていうのが約束だったんだ。
俺は、約束は絶対に守る男だ。
「こっちも…起ってるね」
ふ、と息をかけられただけでも、俺の息子は敏感に反応してしまう。息子だけならともかく、指をいれられた穴も、なぜかキュウキュウと那智の指を締め付けていた。
「そろそろ…いいかな」
「え?」
次の瞬間、激痛を感じた。
「い゛っ…!!?った…ちょ、那…智…」
苦しい…。
苦しい苦しい苦しいそして痛い!!
なんとも言えない圧迫感に息が詰まり、痛みに必死に耐えていると、那智からも苦しそうな声が聞こえた。
「ひろ…や…、ちょっ、力…抜け……っ」
力…力抜くのか…。
あ、あれ?力抜くってどうすればいいんだよ!!?
「や、できな…っ!!やり方分かんないよぉ…っ」
「ひろや…」
「んっ…」
叫ぶ俺の口は、那智の唇で塞がれてしまう。キスはしたことあるが、ディープキスなんて初めてだからやり方が分からなくて、俺は必死に応えようと頑張った。
そうすると、だんだんと体の力も抜けていき、ズズッと奥まで那智の息子が侵入してくる。
「入っ…た…」
「動くぞ」
「えっ!?ちょ、待っ…ひゃんっ」
那智の腰が動き、出し入れされる感覚に、俺は確かに感じてしまっていた。
「あっ…あ…」
耐えまなく漏れる声。
俺はもう何も考えられない状態で…必死に那智にしがみついていた。
「ヒロ…浩哉…」
「な、ち…」
絶頂と共に、俺の意識は途絶えた――…。
次の日…。
俺は痛む腰に耐えながら、登校。
昨日はいつのまにか部屋に寝ていて、どうやら那智が家まで送ってくれたらしい。
「はぁ〜…」
昨日の俺はどうかしていた。那智とセックスしちまうなんて…。
「ヒロ〜おはよう」
「ん、はよ…」
教室に入れば、いつもつるんでいるダチたちが口々に声をかけてくる。そのたびに、今日はテンション低いな…なんて言われた。
腰がいてぇんだよ、腰が!!
「浩哉、おはよう」
隣の席にすわる達也が皆と同じく挨拶をしてくる。
「はよ…」
「なんだ?テンション低くね?」
そしてお決まりのセリフを言われる。
そんなのもお構い無しに、俺は机にすがる。ぐだ〜っ、という感じに伏せた。
「はは〜ん。仲良しの那智くんに噂がたってるから落ち込んでんのか?」
「…噂?」
なんだそれ。
「なんだ、知らないのか。また例の噂だよ。久遠那智が昨日、かわいい女の子とラブホに入るのを見たってね。他にも買い物してたとか、遊園地で見たとか…」
「あぁ…」
みられてたのか…。
でも、俺ってことはバレてないみたいだし、いいや。
「よくやるよね、久遠も。先週は隣の女子校の女の子とラブホ行ったって噂が立ってんのに」
「………え?」
「よっ、浩哉」
いつものように屋上でサボろうと俺は扉を開けた。そして聞こえてきた声にドキリとする。
「…………」
俺は無言のまま、那智から離れた場所に寝転がった。
「なんだよ、無視か?あとお前…腰平気か?」
那智は俺の隣に座りなおすと、俺の肩へ触れようとしたが俺はそれを振り落とした。
「触るなっ!!」
「な…なんだよ。昨日のこと怒ってんのか?だったら…」
「ちげぇよっ!!俺は嘘つきは嫌いなんだよっ!!」
気が立って、つい大声を張り上げてしまう。那智は驚いたように俺を見つめていた。
しばらくの沈黙の後、那智が静かに口を開く。
「嘘つきってなんだよ…俺がなんか嘘ついたか?」
「っ…」
こいつ…まだ誤魔化す気か!?
「お前…ラブホ昨日が初めてじゃないだろ」
「…………」
黙りこむ那智にイライラした。やっぱりコイツは嘘つきだったんだ!
「なんだよ、行ったことないって言ったからついてったのに、自分はいろんな女と行ってるらしいじゃねぇかっ!!」
嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!!
「どうせ童貞の俺を見て楽しんでたんだろ!?自分はモテるってことを自慢したかったんだろ!!」
悔しい…。
昨日のことを、少しでも楽しかったと思ってた自分が馬鹿みたいだ…。
「それは…違う」
「っ…!!まだ嘘突き通すつもりか?」
「だから話聞けよっ!!!」
怒鳴る那智に驚いてしまう。俺は口を閉じ、それを確認したのか那智が口を開いた。
「確かに…俺はラブホ初めてじゃないし、デートだって何回もしてる。昨日…浩哉を誘ったのは…」
「…………」
なぜか言うのを躊躇している那智に俺は首を傾げた。やっぱり自慢したかったんじゃないのか?
「あ〜…もう…。こんな雰囲気もないとこで…」
何をブツブツ言ってんだよ。
「言い訳ならいいから。じゃあな」
「あ、ちょっ…浩哉!!」
ガシッと腕を捕まれてしまい、俺は立ち止まる。振り返れば、そこには真面目な顔をした那智がいた。
「言うよ…言うから…」
「…なんだよ」
「俺は浩哉が好きなんだ」
「……………」
あっさりと言われたそのセリフに、俺は呆然とした。いや、言葉を失った。
頭の中は言葉を理解しようとフル回転している。
「は?」
ようやく発せられたのはそれだけで、那智は頭をぐしゃぐしゃとしていた。
「だーかーらー、好きなのッ!!お前が!!」
「…………」
あぁ、これは…告白されているのか、と俺は静かに理解した。
その瞬間、俺はわずかに緩められていた那智の手から腕を抜けさせ、走った。
「俺は大っ嫌いだ、バーカっ!!」
「…………」
ぽつん、と立ち尽くす那智に、俺はもうひとつだけ言葉を付け足す。
「嘘つきは嘘で返すんだよ!!バーカ、アーホ、ムッツリ!!そんなお前は大っ嫌いだっ」
「え………ひ、浩哉!!」
俺は那智に構わず走り続けて、那智から逃げた。
ドキドキと高鳴る胸を押さえ付け、俺は珍しく授業に飛び入り参加をしたのだった。
『嘘つきは嘘で返すんだよ!!』
『そんなお前は大っ嫌いだっ』
そう言い残し、浩哉は屋上から消えてしまった。俺は混乱しながらも、あの素直じゃない浩哉の言葉を考えながら微笑んだ。
「そんなお前は大好きだ…って解釈していいのかな?」
今、誰かにこの姿を見られたらクールなイメージががた落ちだな、なんて考えながらも顔はにやけていた。
「くそ…可愛いな…」
嘘つきは嘘で返す…ね。
『大っ嫌いだ!!』
「浩哉…」
そんな嘘つきの君が大好きだよ――…。
◇互い◇
「「はぁ〜…」」
そこはリビングだった。
そして溜め息をついたのは俺と…妹の由希。
「なんだ、由希。なんかあったのか?」
「お兄ちゃんこそ…溜め息なんかついて…」
「「………はぁ…」」
またまた溜め息が漏れてしまう。
結局俺は今日、那智に何が言いたかったんだ?嘘つきは嫌いだけど…那智はなんか嫌いにはなれないからあんなこと言っちゃったけど…。
というか俺たち…少なくとも一回は…。
「「ヤっちゃったんだよな…ん?」」
互いが互いの呟きに互いの顔を見合わせた。
「「誰と?」」
なんだこのシンクロ率は…。
「お互いに教えてあおう、お兄ちゃん!!なんかお兄ちゃんなら私の気持ち分かってくれる気がする!!」
「俺もなんかそんな気がする!!」
2階へのぼった俺たちは、互いに互いの秘密を語り、互いに絶叫をあげて、兄妹の絆を強めたのだった。
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