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二丁目の角のタバコ屋は、右足をなくした傷痍(しょうい)軍人のおじいさんが切り盛りしていた。けれど今はコンビニが立っていてもうない。24時間休みなく明かりがついていて、サラリーマンのオジサンがスポーツ新聞を買っていたり、栄養ドリンクを買っていたりする。
1998年の冬、来年になればきっとノストラダムスが予言していた通りに世界が滅んでしまって、大好きなロックバンドのコンサートにも行けなくなっちゃうのだろうと、そう思っていた純真な私は乙女らしい乙女だった。毎朝テレビで占いをチェックしていたし、同じ路線バスで学校に通う敷島くんに恋をしていた。覚えたてのお化粧をして、前髪を整えるのに時間をかける。校則でルーズソックスは禁止になっていたから普通の紺のソックスだったけれど、人並みにスカートを巻き上げて短くした。いわゆる『カワイイ』を演出するのに必死だ。まあ、それも単身赴任の父に見つかると、厳しく叱られたけれど、そんなことは無視。花の女子高生として、今という時間を無駄にしたくなかった。もっとも、加奈子の友達のそのまた友達なんて、援助交際をしていると噂になっていたから、それに比べれば私のスカートの丈の短長なんて、ミジンコのヒゲくらいのご愛嬌ってもんだろう。私は普通の女子高生だった。
「ここってさ、昔はタバコ屋だったよなあ」そう言って加奈子はタバコをふかした。
学校からの帰り道。加奈子はアルバイト代が入ったらしくて、例の角のコンビニで肉まんをおごってくれた。新しく開けたピアスの穴が痛むようで、時より右耳を気にしている。肩までかかる栗色の髪を後ろで束ねて、その上に派手な赤色のキャップをかぶっていた。黒いダウンジャケットにジーンズ姿、靴はコンバースのスニーカーという男の子みたいなラフな服装だったけれど、これが妙に様になっている。ちょっと悔しいくらいのスタイルの持ち主だ。
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