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「でさ、どうなの。あんた敷島くんとやらに、告白したの?」
加奈子はいつも唐突に話題を切り出す。私は「えっ、何なの急に」と言い返すのが精いっぱいだ。何かよい文句はないかと、交差点の信号を見たり、駅裏の高利貸しの黄色い看板に答えを求めようとしたけれど、ムダだった。見れば見るほど、この時期の駅裏通りはみんなクリスマスカラーになっていて、コンビニの窓にも『クリスマスケーキ予約受付中』とある。世間は恋人たちの味方なのだ。そんな中で『思い焦がれて、やけ食いをして、三キロ太る、クリスマス』と、都々逸(とどいつ)のような見当違いな文句を思いついてしまっただなんて、恥ずかしくて言えない。私は寅さんじゃない。――フーテン生活には憧れるけれど――女子高生なのだ。変な前口上はいらないから、とにかく彼氏がほしい。来年は真っ当な受験生として頑張るから、ああ恋愛の神様、どうか私を見捨てないで、と、そう願っていると、
「ちょっと聞いてる? あんたさ、さっきからどこ見てんの? 敷島くんにのぼせちゃって変になっちゃったんじゃないでしょうね。そんな調子なら私がもらってあげるから覚悟しておきなさい」と、脅しをかけられてしまった。冗談だとわかっていても気が気じゃない。敷島くんというワードに過剰反応してしまう。
「ひどーい、ぜったいダメ。加奈子はもう彼氏いるでしょ」と猛抗議したのは、すでにバンドマンの彼氏がいて、数々の恋愛戦線をくぐり抜けてきた精鋭に対する威嚇行為だった。このまま黙っていて敷島くんをとられてなるものか。この冬こそ新兵の意地を見せてやる、と、ひとり息巻いていた。
一方で加奈子は「なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃん。てっきりまた異世界に行ちゃってたんだとおもった」と、あきれ顔。
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