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こんな調子だから、私はよくノロマだとか、お利巧さんだとか、胸がないとか言われて、からかわれていた。無論――加奈子と同じBカップの胸のサイズ以外――反論はしない。自分はおとなしい人間だ。アルバイトだって何だか怖くて踏み出せないでいるし、スカートの丈以外は親の言うとおりにしている。駅前の塾に通って、模試の結果や、偏差値に縛られた生き方を選んでしまう。そこに不満はあっても加奈子のように反発できなかった。本当は、加奈子のように家出してみたり、彼氏のバイクの後部座席に跨って、夜風を浴びながら男のひとの広い背中にしがみついてみたいけれど、そんな勇気はなかった。
「敷島くんはさ、なんていうか、遠目で追っているだけの存在なの」
私は肉まんを頬張りもせずにいった。コンビニの前の駐輪スペースを間借りして加奈子の目を見る。そしていつになく真剣に考えた。彼氏を持っている加奈子の意見も参考にするべきだと。
「遠目って、あんたさ……」
「な、なによ」
「ずいぶん前時代的じゃないの」
「なにそれ、イヤミ?」
「いやね、ほら、遠目に見てるってさ、男の後ろを三歩下がって追いかけているみたいで、古風じゃん。おまえ、どこの演歌の歌詞だよって感じ」
加奈子はいつも飾らない。はきはきとモノを言う。そこが好きなところでもあるんだけれど、今回ばかりは私の言い分も聞いてくれ。敷島くんをモノにできないのは、単に私が引っ込み思案であるからだけではない。
「だって、仕方ないじゃない。敷島くんは、朝の通学のバスの中でしか会ったことがないし、だいたい同じ学校じゃないんだもん。声のかけようがないよ。それに、たぶんあの制服から言って、私学の良いところの子だろうし、頭もいいんだよ。きっともう彼女さんがいるんじゃないかな。私なんかが、気軽に声をかけられそうな男子じゃないんっだってば」
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