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ようやく迎えた当直明けは水曜日だった。
各部署でお世話になった先生やコメディカルの人たちに、置き土産となるお菓子を配り、励ましや労いの言葉をいただきながら、最後に病棟に顔を出す。
『お菓子なんかいらなーい、コーヒーメーカーにして』と強請っていた看護師たちのリクエストに応え、それを持って看護師たちの休憩所を訪れると、数人の看護師がソファーでくつろいでいた。
「え、嘘! やったぁ! って千佳先生ひどい顔。寝られなかったの?」
「やっぱ顔に出てる? これから友達んち行く予定なんだけど、ヤバいかな?」
「ヤバいね」
ケラケラと笑ってみせる彼女は二歳下で、金井さくらという可愛らしい名前の一見ギャルっぽい感じの子だ。
さばさばした性格で誰に対しても物怖じしない、仕事もてきぱきと先を読む、出来る中堅どころだ。
「っていうかさ、千佳先生にお願いがあるんですけど」
休憩室で、帰り支度を始めた彼女もどうやら夜勤明けのようだった。
「なに?」
「このコーヒーメーカー、半分私もお金出していい?」
彼女の言葉にポカンとしてみせれば、金井さんが面白そうに笑った。
「私も実は今日で最後なの。お菓子買ったんだけど、忘れてきちゃって」
「それはいいけど…どこ行くの? まさか結婚?」
聞くと周りの看護師たちがクスクスと笑いだす。
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