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きゃあきゃあ騒ぐ彼女たちと、それから病棟にいる看護師たちに別れを告げ、そのままの足で親友のマンションを訪れた。
親友の名前は篠原比奈。
同じ病院で働いていた、放射線科の医師で付き合いは大学時代にまでさかのぼる。
「お疲れ様」
チャイムと共に向かい出てくれた彼女は、相変わらず小動物のように可愛らしい。
「今日も疲れたぁ。優人は?」
「一人でお語りしてるよ」
出してくれたスリッパを履きリビングに入ると、ソファーの後ろに置いてあるサークルベッドの上で一人でキャッキャとお話している赤ちゃんがいた。
「優人ぉ。千佳ちゃんだよぉ」
近づき、しゃがみ込んだ姿勢でそう声をかけると、私をじーっと見て「あぅあぅ」と声を出す。
疲れも嫌な出来事も一気に吹き飛ばす力がこの子にはある。
まぁ、赤ちゃんというもの全てがきっとそうなんだろうけど、この子は私にとっても特別な子なのだ。
「少し見ない間にまた大きくなったね」
言うと、比奈が嬉しそうに安堵の表情と共に笑う。
この子は一月前に帝王切開で出産されたのだけど、母親の比奈は心臓に疾患を抱え、それはそれは大変だったのだ。
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