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妊娠後期になるにつれ息切れや呼吸困難、むくみ等の心不全の様相を呈し入院。
点滴や酸素はもちろん、閉じ込められた部屋で安静を強いられ、ただただじっと耐えた。
ようやく胎児が外に出ても十分に耐えられるだろうという状態で、予定日よりも早く帝王切開へと踏み切った。
麻酔をかける事すら彼女にとっては生死を賭ける事だった。
それを乗り越えての出産に誰もが感動し、喜んだのは言うまでもない。
そんな中で誕生した赤ちゃんは2500gに達していない低体重児で、保育器の中で数日間を過ごす事を余儀なくされた。
その間、一緒にいられず満足な体重で産んであげられなかった事を悔いた比奈はよく泣いていた。
『今は会えなくても、比奈は一生この子の母親なのは変わりないんだよ』と言うと、改めて母親としての覚悟ができたようで、それからは気丈に振舞うようになった。
四日目にようやく母子同室になった時の比奈の嬉しそうな顔は今でも忘れられない。
だから彼女にとって大きくなったと赤ちゃんが言われる事は特別嬉しいようだ。
優人という名前はお腹にいる時から決めていたのだという。
優しい人になってほしいと、父親から『人』という一文字もらってつけたと言っていた。
優しい比奈と、包容力のある父親の愛情を一身に受けて、きっと優人はすくすくと育つだろう。
そんな優人は、何かを掴むように手を伸ばし楽しそうに遊んでいる。
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