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「今日で最後だったんでしょ? 病院」
寂しそうな顔を向ける比奈に「うん」と頷きながら「大丈夫よ、同じ都内じゃない」と言って立ち上がる。
「総武線で一本、三十分しか離れてないのよ。んー、いい匂い」
主婦業も板についた比奈は、私の朝食を用意してくれていた。
「昨日の残りの肉じゃがだけど、ごめんね」
そう言って目の前に出された和食の朝食に、現金な私のお腹はグーッと鳴った。
「いただきまーす」
ご飯に玉ねぎとジャガイモの味噌汁、肉じゃが、玉ねぎのサラダ…。
「玉ねぎとジャガイモしかないんだけど…」
「いいの。千佳は当直明けなんだから、玉ねぎ食べて血液サラサラにしないとダメなのよ」
確かに玉ねぎには血液をサラサラにする成分があるというけど。
「ジャガイモは?」
「…特売」
比奈の言葉にプハッと笑ってから箸をつける。
んー、美味しい!
「やっぱり新玉ねぎは鰹節と海苔、そして醤油だよね」
シンプルなサラダがまた白いご飯によく合う。
肉じゃがも味が染みててめちゃくちゃ美味しい。
そんな私を比奈はルイボスティーを飲みながら見ていた。
「引っ越しは終わったの?」
私と離れる事を心底寂しがっている様子の比奈は、昨年の年末に私が病院を辞めると告げた時以来、この話を振ってくる事はなかった。
まぁ、一月に入ってすぐに比奈自身が入院しちゃったから、それどころじゃなかっただろうけど。
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