プロローグ

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心電図は徐々に変化し、やがてそれは無脈性電気活動と呼ばれる波形へと変化した。 無脈性なので、心臓自体は動いていなく、電気活動だけがある状態…つまり心停止の状態だ。 けたたましいアラーム音が再びしだすと、ICU内の個室に収容された患者さんのご家族がワァッと泣き叫ぶ声がした。 さっきまで元気だった人が急に倒れ、病院に来たのに『手術が適応ではない、数時間から数日が山でしょう。…会わせたい方がいたらご連絡をしてください』そう言われた家族はどんなふうにして、心に折り合いをつけたのだろうか。 いや、まだついてなどいないだろう。 本人の周りには奥様と子供たち。 それから兄弟だろうか…患者さんと同年代の男性と女性がいた。 年配の人はいなかったので、本人の両親は他界しているのかもしれない。   救急外来で状況説明を受けた奥様と子供たちは、私の登場に表情を緊張したように固めた。 セントラルモニターで止めても止めてもすぐに鳴りだすアラーム音が病室内にも鳴り響いていた。 一礼して患者の元へ近づく。 心電図はテレビでもよくご臨終の際に見るまっすぐに伸びた線だった。 「いやだ、お父さん! やだ!」 目を開けない父親の腕にすがりつくようにして、女の子が泣き崩れた。 他の方も患者さんの名前を呼び「頑張れ」と声を掛ける。 最後の奇跡を望む言葉はアラームという無機質な音で返された。
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