プロローグ

6/9
8509人が本棚に入れています
本棚に追加
/528ページ
*** しばらく外気に触れていたら、すっかり身体が冷えてしまった。 医局で待つ事にし、外に出た時と同じ道を辿って戻る。 入院窓口のあるロビーを抜けると突き当たりは手術室、その手前に心臓カテーテル検査室と名付けられた透視室がある。 そこまで行かずに手前を曲がると放射線科の各部屋があり、その向こう側にERがある。 医局はERの向かいに少し隠されたようなところにエレベーターがあり、それに乗った五階にある。 誰もいないはずの廊下を進んでいると、放射線科の待合の椅子に一つの影があった。 薄いライトに照らされた人物に一瞬驚きながら、でもそれが先程の患者の娘さんだと服装からわかった。 看護師が案内した待合室から抜け出したのだろう。 突然の出来事に着の身着のまま来たといった様子は、暖房の効いていない廊下でとても寒そうだった。 悲しんでいる彼女をこのままそっとしておいてあげる方がいいだろうと、そのまま声をかけずに通り過ぎようとした。 不図彼女が顔を上げて、瞬間視線が合う。 会釈だけでその場をやり過ごそうとすると、彼女が弾かれたように「先生!」と駆け寄ってきた。
/528ページ

最初のコメントを投稿しよう!