プロローグ

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「お父さんは…お父さんは、本当に何もできなかったんですか? 心臓マッサージとか薬とか! テレビみたいな電気ショックとか、そういうの使ってたら生き返ったりしたんじゃないですか?」 納得できていない様子で泣きながら訴える彼女は必死な形相で私に詰め寄ってきた。 よく見ると、まだ高校生くらいに見える。 出血した脳幹という部位が呼吸や心臓の動きといった生命維持機能を含む多数の神経を司る中枢である事、その神経が多数あることから、手術は非常に困難である事、またこの患者さんが脳幹出血の中でも橋(きょう)出血という非常に予後が悪い場所であること、治療法は血圧を下げる事だけだと説明していた。 理解は出来ても納得は出来ないのだろう。 「…お力添え、出来ずに申し訳ございません」 「なんで!? なんで諦めちゃうの? お父さんまだ五十代だよ? こんなに早く死んじゃうなんて…」 嗚咽交じりに「助けてよ、お父さん助けてよ」と聞こえる。 私は何も応える事が出来ずに、彼女の身体を支え、再び椅子に座るよう促した。 『助けてよ…』 泣きじゃくる彼女がいつかの自分と重なった。 ――私はどうやって立ちあがったのだったっけ…。
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