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「ごめんなさい…先生。…わかってるんです。理解してるんです…でも、誰かのせいにしないと…」
泣きながら謝る彼女に、私は気が付いたら彼女の肩を抱き、自分の話をしていた。
「私もね、母を突然亡くしたの。突然っていってもガンでね。良くなってるって言われてたのに突然この世から消えちゃって…。その時、やっぱり人のせいにしたわ。恨んで憎んで…そうでなければ自分が立っていられなかったの。前に進めなかった」
彼女が嗚咽をこらえながらジッと私を見つめた。
私は軽く口元に笑みを浮かべながら「だから私を恨んでいいよ。憎んでいい」そんな事を口にしていた。
きっとあまりにも彼女の姿が昔の自分に似ていたからだ。
彼女はワァーっと声を上げながら、私にしがみつくようにしながら泣きだした。
泣きながら震える肩を小さく抱き寄せ、背中を撫でる。
医師になって五年以上が経つけど、患者の家族にこんな風に抱きつかれて泣かれたのは初めてだ。
しばらくそんな風に泣いていた彼女がおずおずと顔を上げた。
「あの、先生…お忙しいのにごめんなさい」
ゆっくりと首を振って見せると、彼女は少し恥ずかしそうにしながら笑みを浮かべた。
「先生を恨むことも、憎むこともできそうにないです」
彼女の言葉に「そっか」とだけ返したところで、私の胸ポケットのPHSが震えた。
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