本編

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私は加納 有紗(かのう ありさ)、今年誕生日を迎えると20歳になる。そして、母は加納 朱里(かのう あかり)。 母と私は2人で暮らしている。私が物心つく頃には父はいなかった。 母は私が淋しくないようにいつも明るく振る舞ってくれていたし、父の代わりだってしてくれた。だから、時に学校で片親であることを揶揄われても堪えることができた。 ただ、一度だけ、父がいないことで母に八つ当たりをしてしまったことがある。父の日のプレゼントと称して、保育園で父の似顔絵を描くことになった時だ。 周りの子供達は楽しそうに父親の絵を描き、先生に褒められていたけど、私にはプレゼントする対象もいなければ、その姿すら知らない。絵を描く時間を私は涙を堪えて過ごした。 先生は事情を知っているから何も言わないし、そっとしておいてくれたが、それが却って淋しくて虚しくて、不条理な感情が溢れかえっていったことを覚えている。 迎えに来た母に、私は泣きながら怒った。どうして私には父がいないのか。他の子には当たり前のようにいるのに、私にはいないことが当たり前だ。 この違いは何故なのか。 今から考えれば、母にとってもどうしようもないことだと分かるのに、僅か3歳の子供には理解できなかったのだ。
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