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「お母さん、なんだかよく分からないけど、とりあえず話だけでも聞いてみようよ。許せなくても、会わないにしても聞いてから決めてもいいんじゃない?」
苦しげに顔を歪めて俯いてしまった母を、私も締め付けられる胸の痛みに耐えながら見守る。ここまでこれば、この人の言う『兄』が私の父であることは容易に予想できる。
私たちなりに幸せに暮らしてきたとはいえ、母が苦労しなかったとは思っていない。寧ろ、私が気付かないように大変な思いを隠してきたのだと思う。それを簡単になかったことにはできないし、許すことだってできない。
それから、渋々了承した母は冷える玄関先ではゆっくり話をすることができないと判断したのか、リビングへと案内した。ソファーに座ってもらい、さっきまで飲んでいたコーヒーを片付けて新しく淹れ直す。
私がコーヒーを準備している間に、家族の大事な話に部外者は居るべきではないと、知樹は帰っていった。その代わり何か困ったことがあればすぐに連絡すること、1人で悩まないことを約束させられた。
玄関を出て行く時に親指の腹でスッと頬を撫でられると、気付かない間に力んでいた身体から力が抜け、触れられた頬からじわりと火照っていった。
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