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リビングへ戻ると、男性に睨みをきかせている母と綺麗に背筋を伸ばして座る男性がこちらに視線を向けてきた。
「お待たせしました」
「いえ」
「それで、今更話ってなんですか?」
世間話も社交辞令も必要ない。用件だけ言って、サッサと帰って欲しい。そういう雰囲気をはっきりと出した母の声は、初めて聞く程冷たく怒気を孕んだものだった。
「遠まわしに言っても仕方ありませんので、単刀直入に申し上げます。兄、つまり血縁上の有紗さんの父親である、小野寺遼は現在病気の治療のため入院しています」
「……え?」
「実は兄の病気が分かったのは朱里さんが有紗さんを妊娠した分かってからすぐだったんです。プロポーズしようとした矢先、大きな病気が分かりました。それは……命に関わるものでした。そして、一度治っても再発の可能性も高かった。だから、結婚しても苦労しかかけられない自分では2人を幸せにできないと、朱里さんに別れを告げて、貴女方の前から姿を消すことを選択そうです」
「何を、勝手な……」
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