8.三日目①

4/10

291人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
 突然彼女の右肩が不自然に持ち上がり、回転を始めた。ぐるりと360度、まるで着せ替え人形の腕を誰かが回しているみたいに。  音は聴こえないけれど、彼女の大きく開いた口が悲鳴を上げていた。  腕はさらにそのまま回り続け、肩の骨が外れたのかがくんとベッドの上に落ちた。それでもまだ腕は回転を続け、肩の骨と繋がっていた部分の皮膚がまるで布でも絞るように捻れていく。  もう見たくないと思うのに、僕は目を逸らすことができなかった。  彼女のちぎれた腕はごろりと床へと転がる。GIF動画は元の部屋の画像に戻り、繰り返そうとしていた。 「ッ……ハッ……ハア」  スマートフォンの画面をオフにした指先も、ガチガチ鳴る歯の隙間から小刻みに漏れる息も震えている。叫びだしたいのに、喉がカラカラに乾いて声が出ない。  ベッドの背もたれにもたれたまま上手く入ってこない息を何度も吸い込むと、頬につたった涙が口の中に入ってきた。次第に乾きだした涙が頬を突っ張らせたけれど、僕はそのままじっと膝を抱いていた。    耳慣れた洋楽が鳴っていることに気付いたのが、それからどのくらい経ったあとだったのかわからない。いつのまにかカーテンの隙間から朝日が漏れていた。  汗を掻いたTシャツはすっかり乾いていたものの、肌の上にラップを貼ったみたいな肌触りが気持ち悪い。脱ぎ捨ててしまうと、やっと皮膚が呼吸し始めた。  いつの間にか止まっていた音楽が再び鳴り始める。  アラームを止めようと思ってスマートフォンに手を伸ばすと、GIF動画で見た内容がフラッシュバックした。思わず手を引込めそうになったけれど、鳴り止まないスマートフォンを仕方なく手に取る。  画面には着信ー紗名と名前が出ていた。迎えに来るにはまだ早いのにどうしたんだろう。 『彗ちゃん、大変なの!』  電話に出ると紗名の声が部屋の外からも二重に聞こえてきた。
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加