9.三日目②

6/17
前へ
/352ページ
次へ
*  スマートフォンから目を上げて、待合スペースの大きな窓から地上を見下ろす。病院の正面玄関へと続くレンガ敷きのアプローチの周りに植えられた木々が、地面に影を落としている。  ここに着いた頃はまだ短かった影が随分長くなっていた。そろそろ面会終了も時間だろう。  スマートフォンの時刻を確認すると、まもなく15時を過ぎようとしていた。  今日もまたICUの中に入る勇気は無かった。たった10分の面会にも来ない息子を母さんはどう思っているだろう。  でも怖かった。沢山の機械につながれたまま、ずっと眠っている母さんと向き合うのが。  緊急蘇生処置を終えた母さんは、ICUに入った。  手術ができる状態に回復するまで眠らせていると父さんは言っていたけれど。本当はもう目を開けられないんじゃないかと考えてしまう。  回復したら父さんが手術をするらしい。父さんから話を聞きながら僕は変に冷静な頭で、もし母さんの手術中に父さんの手が震えてしまったらどうしようとなどと考えていた。  もう母さんが倒れてから3週間が過ぎようとしている。一体いつになったら回復するんだろう。  約束どおり勉強だってきちんとしている。でも、まだ果たせていない約束があった。スカリムでSランクリミッターになることだ。  Sランクになったら母さんは僕の好きなものをくれると言っていた。だからきっと、僕がSランクになれば母さんは目を覚ましてくれる。そう思って僕は勉強以外の時間をとにかくスカリムに使っていた。  そんな都合の良いことなんてないと頭のどこかではわかっている。それでも、何かに縋りつかずにはいられない。神様でも悪魔でもなんでもいいから、母さんを助けてくれと願ったけれど願いは叶えて貰えそうになかった。  だから、スカリムに願掛けをすることにした。―――Sランクになったら、母さんを戻してくださいと。
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加