9.三日目②

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 一度話し始めたら、色々な感情がせきを切ったように溢れだす。涙まで止まらなくなった僕は一方的に話し続けた。まるで子どもみたいにしゃくりあげながら。  下を向いていた僕は、まだそこにいるのかどうかすら確かめていなかったけれど、なんとなく彼女の気配は感じていた。  彼女の微笑みは僕を許してくれているようなそんな優しさがあって、何もかも吐き出してしまいたくなる。  ずっと思っていたのに。母さんをこんな風にした自分が泣いたり弱音を吐いたりすることは、許されないって。  頭が痛くなるくらい泣いてから顏を上げると、女の子はまだ横に座って静かに僕のほうを見ていた。  改めてちゃんと彼女の顔を見ると、とてもエスニックな顔立ちをしていることに気づく。  もしかしたら日本語がわからないのかもしれないな。 「ごめんね、こんな話を聞かせて。君にはなにも関係ないのに」  伝わるのかなと思いながらもそう言うと、彼女は別に構わないというように頭を左右に振る。  彼女はずっと大事そうにくるりと丸めた紙を持っていた。エジプトのパピルスのように繊維がところどころに見えるし、手漉きの紙みたいに端が切りそろえられていない。  ごしっと袖で涙の残りをぬぐってから、「それは絵?」と訊くと、彼女は少し迷った表情をしたように見えた。 「あ、いいんだ。ちょっと気になっただけだから」  困らせたかなと、見せなくていいよとジェスチャーをまじえながら言う。  でも彼女は僕に近づくように座り直し、巻いてある紙を広げた。やっぱり絵だ。黒いインクで木が描かれている。  何枚かある内の一枚を彼女は選び、僕の膝の上に置く。 「見せてくれるの?」  違うというように頭を振った彼女は、絵を僕の膝に強く押しつける。 「え、くれるの?」
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