9.三日目②

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 こくりと頷く。話すことはないけれど、どうやら彼女は日本語を理解しているようだ。  膝に置かれた絵を開いて見てみると、少女が持っていたとは思えないほど不気味な絵だった。  でも、せっかくくれたのだから、返すのも悪いしありがたく受け取ることにする。 「ありがとう」  礼を言うと、彼女はまたにこりと微笑む。 「君も家族がここに入院しているの?」  そう質問した時、彼女は突然強張った表情になりばっと病棟の窓を見上げた。一つ一つ窓を確認するように視線が段階的に上がっていく。  その動きが止まると悲しそうに眉を寄せ、彼女は一つの窓を指さす。 「そっか、君の家族はあの部屋にいるんだね」  ぶんぶんと頭を振って病棟を何度も指さす。突然怒ったように眉を吊り上げる彼女に戸惑ってしまう。 「チガウ!! マママッテル」  初めて彼女が発した声はまるで映画や絵本の中に出てくる魔女のようなしゃがれ掠れていて、目の前にいる女の子の声にはとても思えない。でも間違いなく彼女が発したものだった。  僕はその驚きをできるだけ出さずに言う。 「ごめんごめん、お母さんなんだね。君も僕と一緒なんだ。……ねえこの絵って、君が描いたの?」  話題を変えようと絵のことを質問すると、彼女はドンっと強く僕の体を押した。油断していた僕はベンチの背もたれに背中をぶつけてしまう。  どうしたんだろう。一体何が彼女を怒らせたのか。 「痛たた……君が描いたんじゃないの?」  彼女は悲しそうな顔をしてため息を吐いてから、もう一度窓を見上げ何か呟いた。 「……」
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