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「なんて言ったの?」
日本語には聞こえなかった。一体どこの言葉なんだろう。
ポケットの中でスマートフォンが震えていた。僕は彼女に断ってからポケットから取り出したスマートフォンの画面を見る。
「はなさん?」
もうこんな時間か……いつもならもう家に着いている時間だから、まだ帰ってきていないのを心配しているのかもしれない。
母さんが入院してから週に何度か紗名の家で夕飯を食べることになっている。はなさんの気遣いは嬉しいけれど、少しだけそれが億劫でもあった。
賑やかな家から自分の家に帰ってくると、より一層一人の家が寂しく思えたから。
一度切れた電話がまたかかってきて、再びスマートフォンが手の中で震えだす。
「ちょっとごめんね」
そう彼女に言ってから僕は電話にでる。
「彗くん? いまどこにいるの! 家にも帰っていないし、何度も電話したのよ」
いつものクールなはなさんとは異なる切羽つまった声に嫌な予感がした。
「ごめん。気づかなかった。まだ病院にいるんだけど、何かあった?」
少し開いた間が僕を不安にさせる。
「はなさん……?」
「彗くん、かほりさんの容態が急変して……」
最後まで聞く前に走り出していた。ポケットにつっこんだスマートフォンからはなさんの声が漏れ聞こえる。
嘘だ、そんなの嘘だ。
体中をザワザワとした不安が這いまわっているみたいに思える。
母さんはまだ死んだりしない。手術できるまで回復させるって父さんは言っていたんだから。
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