9.三日目②

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 早く走らないといけないと思うのに、気持ちとは裏腹に体がぎくしゃくして上手く走れない。  正面玄関に着いたとき、女の子に何も言っていなかったことに気づき振り返ったけれど、もうベンチには彼女の姿はなかった。  降りてくるエレベーターが待ちきれなくて階段を駆けあがる。息が上がって苦しかったし、足も重くなったけれどただ待っているよりはましな気がして。  上りながら女の子が言っていたことを思いだしていた。もしかして、彼女が待っていると言ったのは母さんだったんだろうか。思い返せば彼女の指さしていた窓が、ちょうどICUの辺りだったことに気づく。  でもそんなこと……あるはずない。そうだ、それに母さんが死ぬわけない。だって、約束したんだ。Sクラスになったらお祝いしてくれるって。  嫌な予感を振り切るようにだるくなった足に力を入れ、僕は階段を上るスピードを速めた。
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