10.三日目③

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「うん、なかった」 「清瀬さんは東野君の」 「カジくん! まだ? 紗名待ってるよ!」  視線に気づいたのか、清瀬さんが大きな声で僕に向かって手を振る。 「ごめん、今行くから」  小倉さんがびくっと体を震わせる。 「ごめんね、清瀬さんは……何だった?」  明らかにおびえた様子の小倉さんは「何でもない」とうつむいたまま言って、立ち上がる。 「変なこと言ってひきとめてごめんね。私、塾があるから帰る。浅田さんが傷つくと嫌だから少しだけ気にしておいて」 「あ、うん。ありがとう」 「またね、鹿嶋くん」  それだけ言うと、僕の返事も待たずに小倉さんはカバンを掴み、清瀬さんを避けるように反対側のドアから出て行ってしまう。  彼女の抱えている傷も、紗名と同じようにきっと深いんだろう。  あんなに自信なさげにしている小倉さんは初めて見た。  彼女の後ろ姿を見送りながら、僕も立ち上がって教室を出た。
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