291人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
*
「彗ちゃん、曾根田さんって怖い?」
地下鉄の階段を上り、外に出た時にはもうすでに陽が傾きかけていた。
高校の最寄駅から地下鉄東山線に乗って数駅。定期があるからいつでも降りることはできるのに、この駅で降りた記憶はない。
「覚王山って何があるの? なんかマンションばっかりに見えるけど」
広小路通りに面した歩道を歩き出すと、交差点の角にスターバックスコーヒーが見える。
17時にスタバのある交差点を上にあがっていったところにある「hito+cafe」で――確か祐ちゃんはそう言っていた。
「もう、彗ちゃんってば、私の話聞いていなかったでしょう」
歩き出そうとすると、ギューッとカバンが後ろに引っ張られ、つんのめりそうになる。
「ごめんごめん、聞いていたって。大丈夫だよ、祐ちゃんは怖くないから。この道でいいのかな。朝話した待ち合わせ場所のカフェ。紗名も覚王山に来たことはないの?」
よく紗名と寄り道するのは、星が丘駅や乗換えついでに降りる本山駅。買い物に行くなら栄周辺や大須まで出てしまうことが多いから、今までこの駅を意識したことがなかった。
「うん、ないよ。でもこの前ね、雑誌で覚王山の特集がされていてお洒落なお店がいっぱい載っていたから行ってみたいなあって思っていたの。でも美月ちゃんは反対向きの定期しか持っていないから誘うと悪いし、彗ちゃんはあまりそういう所に行きたがらないし」
写真でしか見たことのない祐ちゃんと会えるのか少し心配で、なんだかそわそわしてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!