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「もう16時半か……カフェはもう少し先?」
返事がないまま紗名が次に足を止めたのは串カツ屋だった。
お洒落な店に行きたいって言っていなかったっけと首を傾げそうになるけれど、昔ながらの大衆食堂を思わせる店からは美味しそうな八丁味噌の甘い香りが漂ってくる。窓にべたべたと貼られた白い紙には、どてめしと書かれていた。
「紗名、行くよ」
「えー、串カツ食べたい……」
食べ歩き気分の紗名を誘惑する店がこの通りには多いらしい。僕だって食べたくないわけではないけれど、この調子じゃいつまでたってもカフェに着きそうにない。
「だめ、もうそろそろ時間だからカフェを探さなきゃ」
道向こうにはクラシックなアメリカをイメージさせるお洒落なドーナツ屋があり、店内は主婦やOLといった女性客で賑わっている。しかし、そのすぐ隣には畳屋、向かいにはフレンチレストランやガラス細工のアクセサリー屋と、多種多様な店が並ぶ。
「紗名、地図見てみて」
「……ちょっと待ってね」
紗名は駅の近くで貰ってきた覚王山MAPを広げて現在地を確認している。
「もう少し坂をのぼったところにあるみたい」
名古屋を中心に展開している馴染み深い珈琲店やスーパーなんかでも見かける少し高級なイメージのある地元の紅茶屋、その隣に並ぶ同系列の老舗インド料理屋を横目で見ながら通り過ぎる。
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