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煮え切らない返事をして、もう完全に陽が落ちた窓の外を見ると、つられるように紗名も外に視線を向けた。
「ねえ彗ちゃん、祐さま来ないね。スカリムに返事もないの?」
「うん……ない。もしかして、やっぱり会うのが嫌になったのかな。祐ちゃんが来たら、このことも相談できると思ったんだけどな」
「ここでもう少し待つ?」
もう約束の時間は 一時間近く過ぎようとしている。多分、祐ちゃんは来ない。何となくそんな気がした。紗名をこれ以上付き合わせるのも悪いし帰った方がいいだろう。
「もう出ようか」
そう言いかけたとき、窓の外を祐ちゃんの通う成北高校の制服の学生が通ったのが見えた。
「紗名! ちょっと待っていて」
慌てて席を立って店の外に向かう。
「彗ちゃん?」
紗名の声が後ろから聞こえて来たけれど、振り返ることなく走った。街灯の明かりに浮かぶ成北の制服を追って。
「祐ちゃん!!」
遠ざかっていく背中に向かって叫ぶ。でも、その背中は止まってはくれない。
「待ってよ! 祐ちゃん」
やっと追いついた僕はその腕を掴んで呼びかけた。息が上がって苦しい。
「はあ?」
苛つきを含んだその声の主が振り返った。
睨むような目つきで、心底迷惑そうにこっちを見ている。
「あ……すみません。人違いでした。知り合いかと思って」
180cm以上ありそうな高身長に黒縁の眼鏡をかけたザ・成北イメージの真面目そうな男。
脇には雰囲気にそぐわないスケッチブックを抱えている。眼鏡の奥の目つきはとてもじゃないけれど良いとは言えない。
僕がもう一度「すみません」と頭を下げると、その男はすぐに踵を返して歩き出してしまった。
「なんか感じ悪いなぁ……」
祐ちゃんじゃなかったことにがっかりしつつも、その無愛想な男が祐ちゃんでなくて良かったと心底思った。
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