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外はもう真っ暗で、街は昼間とはうって変わりずっと大人びた雰囲気になっていた。
「暗くなるの早くなったね」
「もう秋だからね。紗名、寒くない?」
肌を撫でるように秋のひんやりとした風が通り過ぎていく。
つい最近まで夜も蒸し暑かった気がするのに、急激に本格的な秋が訪れたみたいだ。
街路樹の木々も色付き、風に揺れる葉が時折足元に落ちる。
「寒くないよ」
工芸やギャラリーなどは片付けを始め、脇道の奥に見えるバーやレストランなどが明かりを灯しだしている。
冷たくなった紗名の手を握って足早に歩きはじめると、小さな手が少しだけ僕の心を温かくしてくれるような気がした。
「ねえ、彗ちゃんにメディアリプを送ってきたリミッター、全く心当たりはないの?」
手を握る紗名の指の力が少し強くなった気がして、僕は立ち並ぶ店々から紗名に視線を移す。
「心当たり?」
「例えば誰かに恨まれているとか、最近他にもおかしなことがあったとか」
僕はふと紗名の繋いでいない手が、スカートを弄っているのに気づく。
「思い当たることはないけれど、どうして?」
かっこいいと言われて舞い上がっていたのは、どうやら僕だけらしい。何か言いにくいことを言う時、紗名は決まってスカートを指で摘んだり離したりを繰り返す。
「そういうわけじゃないけれど、もしかしたら彗ちゃんのフォロワーの中にいたりするんじゃないかなって思って……」
彼女はそう言うと、チラチラと僕の様子を伺う。やはり何か思っていることがあるようだ。僕のことをかっこいいと言ったことと何か関係があるんだろうか。
「僕のフォロワーに?」
「彗ちゃんは自分のフォロワーはみんな味方だって思っているかもしれないけれど、色々な人がいるし味方だとは限らないでしょ」
「誰か心当たりがあるの?」
「……やっぱりいい」
大体こういうときに焦って核心に近づこうとすると、紗名は口を閉ざしてしまう。
「すぐ途中で言うのを止めようとするんだから。ちゃんと紗名が考えていること教えて欲しいんだけど」
お願いするように言うと、紗名は迷っているのか下唇を何度も噛みながら思いつめたように足元を見ている。
「そんなに言いにくい話なの?」
彼女の表情を見ていると、何だか僕までそわそわしてきてしまう。
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