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「彗ちゃんのことを本当に好きな女の子だってたくさんいるよ。彗ちゃんが気づいていないだけで」
「へえ、知らなかった」
そっけなく返事しながらも嬉しく思う自分がいる。直接言われると断るのが面倒だなと思うけれど、好かれて嫌な男はいないんじゃないだろうか。
「彗ちゃん、私が朝先に行くって言ったときのこと覚えている?」
「うん、去年のことだよね。覚えているよ。勉強したいから朝一人で行くって。突然だったからちょっとびっくりしたけれど」
――明日から朝学校で勉強をしたいから、しばらく少し早く出ることにするね
いつも通り一緒に帰ってきて「また明日」と言おうとしたとき、紗名から言われたのだ。梅雨で何日も雨が降り続いていた頃だったのを覚えている。
「あれね、嘘だったの」
「え……嘘って」
確か紗名は、僕が「じゃあ、30分くらい早く出ようか」と言うと、それも断って「ううん、電車の中でも勉強したいから一人で行く」と答えたのだ。
彼女が僕に合わせ無理をしてこの学校を受験したことはわかっていたから、きっと授業についていくのが大変なんだろうと僕は自分に言い聞かせた。
「もしかして、誰か他の人と行っていたの?」
別に付き合っているわけでもないんだからそんなの紗名の自由だと思いながらも、胸がチリチリして、問い詰めるような口調になってしまう。
でもその質問は紗名にとってまと外れなものだったようで、きょとんとしている。
「えっと、じゃあなんで先に行くことにしたの?」
「私ね、嫌がらせにあっていたの」
「嫌がらせ?」
枯葉を足先でもてあそんでいた僕はびっくりしてそれを踏み潰してしまう。足元でカシュっと音がして葉が砕けた。
「ねえ、本当に怒らないでね」
紗名はもう一度念を押す。
「去年のクラスにはスカリムをやっている人が多くて、インタビューを見て彗ちゃんのファンになったっていう女の子がたくさんいたの」
「僕のファンって、祐ちゃんじゃあるまいし」
「でも、彗ちゃんのフォロワーは学校内にもいっぱいいるでしょ」
「いるけどファンとはちょっと違うよ。それで僕のフォロワーがどうしたの?」
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