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そう言う紗名の顔には怯えが浮かぶ。言いたくないようなことをされたんだと思うと、腹の底から怒りが湧きあがってくる。
「それでもっとひどくなったら嫌だから、朝彗ちゃんと一緒に行くのを止めようと思ったの。みんな見るでしょ。帰りは少し時間を遅らせればあんまり目立たないけれど」
「もしかして、帰りに僕が紗名の教室に迎えに行くのを嫌がったのもそれでなの?」
胸の中が砂を踏んだみたいにザリザリする。
朝別々に行くようになってから数週間後、「帰りは私が迎えに行くから、彗ちゃんは自分のクラスで待っていて」と言いだした。少し前から教室に迎えに行くと、紗名が周りをうかがいながら出てきているのに気づいていたけれど、呑気にも僕はクラスメイトにでもからかわれるのが恥ずかしいんだと思っていた。
「彗ちゃんが教室に来ると、みんなの視線が怖かったから」
「言ってくれれば良かったのに」
「言えないよ、そんなこと。それにそのあとウィスクラが送られてきて」
「ウィスクラ? あれ、紗名って去年はスカリムやっていなかったよね。二年生になって清瀬さんから一緒にやろうって誘われたから始めたって言っていた気がしたけれど、僕に嘘をついていたの?」
つい咎めるような口調になってしまったからか、答える紗名の声が少し小さくなる。
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