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家の前で紗名と別れ、玄関扉に鍵を差し込むと、「おかえりなさい」と言う優しい声が飛び込んできた。
一瞬夢を見ているような感覚に襲われたけれど、数秒後にはそれが隣の浅田家から聞こえてきた紗名の母・はなさんの声だと気づく。
部屋に入り明かりをつけると、余計に誰もいないのが際立った。誰もいないのなんていつものことなのに、なぜか今日は一層部屋が寒々しく感じられて、そのまま制服も脱がずにリビングのソファに倒れ込む。
どうしていつも僕は大切なことを見過ごしてしまうんだろう。そんな自分が悔しいし情けない。
紗名がいじめられていたなんて、全く気付かなかった。紗名がされたことを思いだすと、また怒りが込み上げてくる。心の中に収めておかなければいけないのはわかっているけれど、そう簡単に怒りは治まってくれそうにない。復讐してやりたかった。紗名をそんな目に遭わせた奴らに。
祐ちゃんに話を聞いて欲しかった。なぜ今日来てくれなかったんだろう。本当は僕に会うのが嫌になったんだろうか。そう思いながら、顏をソファに埋め大きなため息を吐いた。
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