4.二日目③

17/18

291人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
 結局あのまま会話は止まり、足元でカサカサという落ち葉の音を聞きながら黙々と歩いた。  覚王山の駅に着くと紗名は「あ、電車来ちゃう」と、一人で階段を駆け下りて行ってしまった。  飛び乗った電車はとても混んでいて話ができるような状態ではなく、互いに無言でずっとスマートフォンを弄って過ごすことになったのだ。  最寄り駅から家はすぐだから流れ始めたおかしな空気を取り払うこともできないままお互いの家に帰った。  口を開いたら、謝るか、誰がやったのか問い詰めることしかできそうになかったから、ちょうど良かったのかもしれないけれど。  きっと紗名が僕に話をしなかったのは、脅されたからだけではないんじゃないかと思う。あの頃の僕は成績が落ちたことで余裕がなかったし、父さんや母さんともギクシャクしていて苛々していることが多かった。だけど、情けないと思われたくなくて、紗名に相談はできなかった。  紗名もそうだったのかもしれない。身近な人にほど、知られたくないこともある。  でももし、僕にちゃんと彼女の話を受け止める器があれば、話をしてくれていたのかもしれないと思う。そうしたら、紗名はあんな目に遭わなくても済んだのに。     
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加