1.一日目

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 祐ちゃんはスカリムで知り合った超有名進学校に通うリミッターだ。  フォローしているSSランクリミッターは大勢いる。でも、僕が毎日必ずチェックするのは彼のクラウドだけだ。  彼の哲学や政治について語る難解なクラウドを完全に理解できているとは言いがたいけれど、使う言葉の一つ一つが僕の心に強く語りかけてくる。  同じ高校生とは思えないくらい落ち着いていて、何を相談しても誰に訊くよりも的を射た答えを返してくれる祐ちゃんは、憧れであり尊敬するリミッターだ。  先にフォローしたのは自分だ。でも、それから随分経った頃、当時まだBランクのリミッターだった僕に突然話しかけてきたのは祐ちゃんのほうだった。  今でも少し不思議に思う。普段誰に対しても自分から話しかけることはもちろん、返事をすることだって滅多にない祐ちゃんが何故僕に話しかけようと思ったのか。  その頃一度だけなぜなのかと理由を尋ねたことがある。しかし「何か気になったんだよ」と祐ちゃんは曖昧な答えを返すだけだった。  まだSランクの頃の祐ちゃんのフォロワーは男子リミッターばかりだった。でもオリジナルの詩をクラウドするようになると、女子リミッターからも支持を得てその人気は拡大していく。SSランクになった今では、彼をアイドルのように捉える女子フォロワーがその大部分を占めるようになった。  祐ちゃんは、その熱狂的なフォロワーにも、滅多に返事をしない。したとしても、ありがとうとかおやすみなどの短い言葉のみ。それでも、そのレアなクラウドにフォロワー達は舞い上がるらしい。  初めに言葉を交わして以来、祐ちゃんから時折話しかけてくるようになった。今では毎日のようにクラウドのやりとりをする。それが僕は誇らしい。彼に特別な人間だと言われているみたいで。  知的なクラウドやスマートな雰囲気を持つ祐ちゃんがモテないはずもないけれど、最近のアイドルに対するような異常な人気は多分外見のせいだ。プロフィール用の小さな画像でも十分に爽やかで端正な顔立ちをしているということがわかる。  外見で騒がれるのを好まないということは知っているけれど、僕は高校生の憧れの存在である祐ちゃんを羨ましくも思う。多分そう僕が思っていることを、彼も気づいているだろう。祐ちゃんみたいになれたらいいのに……。そう思いながら僕はベッドの上で寝返りを打った。
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