6.二日目⑤

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 まだ何か言いたげな母さんに「大丈夫だって」と笑い、スマートフォンの画面に視線を戻した。 「お父さんがね、成績が落ちるようならスカリムを止めさせるようにと言っているの」  胸の中に黒いもやもやとしたものが広がっていく。顔を上げてスマートフォンを机に置くと、母さんは申し訳なさ気に僕を見ていた。こうやって父さんと僕の顔色を伺っている母さんに、いつも少し苛つきを覚える。母さん自身がどう思っているのかはっきり言えばいいのにと。 「いつものことだよ。父さんは僕が何かに興味を持つと、くだらないから止めろって言う。何だって一緒なんだよ。自分が認めているモノ以外、父さんは認めようとしない。ラグビーもダメだったし、成北に落ちた僕はもう父さんみたいにはなれないし、なりたくなんかもない」 「彗太、お父さんのことを悪く言うのは止めなさい。お父さんだってあなたのことが心配なのよ」  たしなめるように母さんは言うけれど、そんなのは嘘だ。 「心配? 僕のことが気に入らないだけでしょ。思い通りにならない息子なんて父さんにとってはどうでもいいんだよ」  母さんの顔が悲し気に曇る。父さんのことで母さんを責めてもどうしようもないことなんてわかっているのに、つい当たってしまう。だから父さんの話なんてしたくないんだ。 「……母さんはどう思っているの」 「私? そりゃあ母さんだって心配よ。何か危ないことに巻き込まれたりしないのかしらって。ニュースとかでもあまり良い話は聞かないから」 「危なくなんてないよ。テレビは起きてもいない悪い妄想ばかりを大袈裟に伝えるんだ。母さんまで止めろって言いたいの? 僕は止めないよ。高校生の間にスカリムでSSランクリミッターになるって決めたんだ。絶対に止めない!」  そう強く言い切った僕に驚いたのか豆鉄砲でも食らったような顔をしている。  今までは父さんの命令に結局は従うようにしてきたけれど、聖院高校に入ったのだってもう思い通りになりたくなかったからだ。僕は僕で、父さんじゃない。僕は僕のやり方で父さんを見返してやりたかった。
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