6.二日目⑤

8/15

291人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
 もうすぐ夏休みに入るという頃、返ってきた学期末テストの結果に僕は深いため息をついた。自分では頑張ったと思ったのに思いの外点数は伸びず、きっとまた父さんに何か言われるのが明白だったからだ。  案の定その数日後、珍しく早く帰ってきた父さんは、僕の顔を見た途端凄い剣幕で怒鳴りつけた。手には期末テストの結果を持っている。 「彗太! 一体何だ。この成績は」  ソファに寝転びながらスカリムを見ていた僕は父さんの顔を一瞬見て、またすぐにスマートフォンの画面に目を戻した。その態度に腹を立てたのか、父さんはスマートフォンを奪い取ると、僕に向かって思いっきり投げつける。 「痛ったいなあ、何すんだよ!」  睨み付けながらソファから立ち上がると、僕よりはるかに筋肉質で体格の良い父さんが、眉間に一層深い皺を刻みながら僕に近づいてくる。 「何だ、その生意気な態度は! お前はまだあのくだらないSNSをやっているのか。やめろと言っただろう!」 「ちゃんとやることはやってるからいいだろ」 「親に生意気な口を聞くな! だから私の言う通りに中学から成北に行っておけば良かったんだ。中途半端な県立高校なんかに行くから、お前まで周りに感化されて下らない人間になる」  東海地区で名門と言われる成北高校のOBの父さんはいつもこうだ。  大体この辺りで医者を目指す者は決まって成北の中等部に行き、そのままエスカレート式に高等部へ通う。そして大学は県外の有名私立を受験するか国立大に行くんだと、僕は小さな頃からずっと言われ続けてきた。  もちろん父さんも僕を自分の母校へ行かせるつもりだったらしい。でも、残念なことに僕は中等部の受験に失敗した。僕だってショックだったのに、父さんは僕を罵倒することしかしなかった。多分、自分が思っていたような息子じゃなくてがっかりしたんだろう。  もし、僕が祐ちゃんみたいな息子だったら、父さんも僕を認めてくれたんだろうか。  でも父さんが僕に失望したように、僕も父さんに失望した。きっと父さんはそのことに気づいていないだろうけれど。
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加