6.二日目⑤

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 成北の中等部を落ちた時から、高校は紗名と同じところへ行くと決めていた。    元々中学でも紗名は僕以上に仲の良い友達がいなかったから、彼女にそう言うと驚いてはいたけれど嬉しそうだった。紗名に合わせて高校を選ぶつもりだったけれど、彼女は当時の彼女の成績では難しいと思われた県立聖院高校を志望校にして猛勉強をし始めた。そこなら僕の第二志望にしてもおかしくない上位の進学校だったからだ。  そのかいあって中学三年の夏ごろには、紗名も聖院高校がなんとか合格圏内に入るようになる。学校や両親には反対されると思ったから第一志望は一応県立のトップ高のままにしておいたけれど、僕は第二志望の聖院高校に入ると決めていた。紗名と同じ高校に行きたいというのが一番の理由ではあったけれど、学校紹介などを見ている内に僕自身少し変わった自由な校風の聖院高校に魅力を感じていたし、迷いはなかった。  入試の結果を受けて先生や母さんは僕が第一志望に落ちたことに動揺し、名前でも書き忘れたんじゃないかと慰めあっていたけれど、落ちた理由なんて簡単だ。わざといくつかの設問の答えを書かなかっただけなんだから。  中学受験に失敗した時から僕と父さんの間にはピリピリとした空気が漂っていた。でも、高校に落ちてからはさらにその溝は深まったように思う。 「どうせ誰かから聞いただけだろ。父さんは、僕の学校に来たことすらないじゃないか。それで何がわかるんだよ。成北成北って、父さんみたいになるなら成北になんて行かなくて良かったよ!」  言い過ぎだとは思ったし、父さんが明らかに普段見せない程の怒りを浮かべたのがわかった。でも、謝る気持ちになれなかったのは、それが僕の本音だったからだ。 「彗太! お父さんに何て口をきくの。早く謝りなさい。あなたも私から言って聞かせますから、落ち着いてください」  普段から父さんに対して気を使ってばかりいる母さんが、こういう時に口を挟むのは珍しい。 「大体、お前が彗太を甘やかすからこんな奴になるんだぞ。どうして、こんなに成績が落ちるまで放っておいたんだ。お前は本当に母親失格だな」  母さんは酷く傷ついた顔をした。それでも「すみません」と頭を下げる。 「何言ってるんだよ、母さんは何も悪くないだろ」  咄嗟に掴みかかろうとした僕の胸を父さんは強く押した。
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