6.二日目⑤

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「少し頭を冷やせ。それからそのくだらないSNSはこれから二度とやるな」  バランスを崩しソファの上に倒れた僕が睨みつけると、父さんは踵を返して部屋を出て行こうとする。 「勝手に決めるなよ。何なんだよ!」  立ち上がって追いかけようとした僕に、しがみついたのは母さんだった。 「彗太! もう止めなさい。母さんのことは良いから」  振り切ろうとしても母さんは離れない。仕方なく体を離した僕はこの日初めて母さんの顔をしっかりと見た。その瞬間なんだか背中がすっと冷たくなる。  血の気が引いたように青い顔。唇の色も悪く目も落ち窪んでいて今にも倒れてしまいそうに見える。起きた時から着がえていなかったのか、まだ部屋着のままだし、髪もボサボサで。  いつも綺麗に身支度を整えているのに……。  さっきまで母さんはいつものように台所で食事を作っていた。でも、学校から帰ってきた時、いつもならリビングにいて「おかえりなさい」と声を掛けてくれる母さんがなぜか寝室から出てきたのを見たことを思いだす。 「……ねえ、母さん。どうかしたの? もしかして気分が悪いの?」  手を取ると、とても冷たい。かっとなっていた頭の中がすーっと冷えていく。  刃向う気を無くしたのがわかったのか、父さんはそのまま苛立ちをぶつけるように大きな音を立て部屋から出て行った。多分今日は病院に泊まってもう帰って来ないんだろう。  父さんのことなんてもうどうでも良かった。何で今まで気付かなかったんだろう。こんなにひどい顔色をしていたのに。 「大丈夫、少し休めば治るから」  弱弱しい顔で笑う母さんをソファに座らせ、「ごめん」と呟く。  同じ部屋にいたのに学校から帰ってきてすぐにソファでごろごろとしていた僕は、母さんの具合が悪いことに全く気付いていなかった。 「あんまりお父さんを怒らせるようなことは言わないのよ」  唇を噛んで下を向く僕の頭を母さんは優しく撫でる。
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