6.二日目⑤

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「ありがとう、昔から優しい子ね、彗太は」  ほんの少し口角をあげて微笑む母さんに、ズキンと心が痛んだ。なぜもっと早く気づいてあげられなかったんだろう。  最近ちゃんと母さんと話をした記憶がない。ご飯だって食べ終わったら何も言わずに、すぐ部屋に籠っていたし。 「なんだかとても気分が悪くて。それに肩が痛いの。きっと年のせいね」 「ちゃんと検査をした方がいいよ。父さんに頼んで大学病院で検査を受けさせて貰えばいいだろ」 「お父さんは忙しい人だから、心配をかけたくないの。明日、他の病院に行ってみるわ。彗太、悪いけど少し休むわね。食事の用意はできているから、ちゃんと食べるのよ」  母さんの指さしたダイニングテーブルの上には、いつものように夕食の準備が整っていた。もちろん父さんの分も。  きっと、あれはそのまま残ってしまうのだろう。それが僕のせいだと思うと胸がちくりと痛む。  テーブルの上にはいつも僕の知らない綺麗な花が活けられている。庭にも母さんの育てている沢山の花が咲き誇っていた。  明日は紗名に付き合って貰って、花屋にでも寄ってみよう。きっと母さん喜ぶだろうな。 「うん、ちゃんと食べるし、そんなこと気にしなくていいからもう寝て。何かあったらすぐに呼んでよ。……ねえ母さん」 「何?」 「あのさ……いつもありがとう」 「どうしたの、そんな改まって。大丈夫よ、明日になったら元気になるから心配しないで」  ふっと嬉しそうに笑顔を見せる母さんが、弱弱しく見えて僕は急に不安になる。 「なんだか小さい頃に戻ったみたい。あなたはいつも甘えん坊だったのに、いつの間にかすっかり大人っぽくなっちゃったわね」  母さんはそう言うと僕の頭を数回撫でた。僕が父さんに怒られて落ち込んでいると思ったのかもしれない。
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