291人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
「ありがとう、昔から優しい子ね、彗太は」
ほんの少し口角をあげて微笑む母さんに、ズキンと心が痛んだ。なぜもっと早く気づいてあげられなかったんだろう。
最近ちゃんと母さんと話をした記憶がない。ご飯だって食べ終わったら何も言わずに、すぐ部屋に籠っていたし。
「なんだかとても気分が悪くて。それに肩が痛いの。きっと年のせいね」
「ちゃんと検査をした方がいいよ。父さんに頼んで大学病院で検査を受けさせて貰えばいいだろ」
「お父さんは忙しい人だから、心配をかけたくないの。明日、他の病院に行ってみるわ。彗太、悪いけど少し休むわね。食事の用意はできているから、ちゃんと食べるのよ」
母さんの指さしたダイニングテーブルの上には、いつものように夕食の準備が整っていた。もちろん父さんの分も。
きっと、あれはそのまま残ってしまうのだろう。それが僕のせいだと思うと胸がちくりと痛む。
テーブルの上にはいつも僕の知らない綺麗な花が活けられている。庭にも母さんの育てている沢山の花が咲き誇っていた。
明日は紗名に付き合って貰って、花屋にでも寄ってみよう。きっと母さん喜ぶだろうな。
「うん、ちゃんと食べるし、そんなこと気にしなくていいからもう寝て。何かあったらすぐに呼んでよ。……ねえ母さん」
「何?」
「あのさ……いつもありがとう」
「どうしたの、そんな改まって。大丈夫よ、明日になったら元気になるから心配しないで」
ふっと嬉しそうに笑顔を見せる母さんが、弱弱しく見えて僕は急に不安になる。
「なんだか小さい頃に戻ったみたい。あなたはいつも甘えん坊だったのに、いつの間にかすっかり大人っぽくなっちゃったわね」
母さんはそう言うと僕の頭を数回撫でた。僕が父さんに怒られて落ち込んでいると思ったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!