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「真南斗!」
背後から突然叫ばれて、私はビクついた。
中庭へ続く扉は壊れかかっていて、乱暴に開け閉めするとしばらくキイキイと音が止まらない。
音を生み出した張本人は知らん顔でバスケットゴールの下の数人の元に近寄る。
その中に本城くんがいた。
慌てて立ち上がるのも気がひけるし、にこやかに観戦する気にもなれず、私はまた活字に頼った。
ワーッと歓声があがる。
取り巻きの女子生徒がぽつりとつぶやく。
「真南斗くんてさ、バスケし出すと超かっこいいよね」
「うん、バスケ大好きって感じするよね」
私はその言葉を聞いて、顔を上げて本城くんを目で追った。
「僕はバスケより、陸上の方が好きだ」
そう言っていたのを思い出す。
それでも本城くんはとても楽しそうに見えた。
でもきっとバスケを楽しんでいるというよりも、友達と絡み合って戯れているのが楽しいのだろう。
「真南斗!ダンク!」
パスを受けた本城くんが膝を使って飛び上がり体をぐんと伸ばすとボールを押し込むようにしてゴールへ投げ入れた。ディフェンスについた生徒との体格差もあったけど、コチコチの彼らに比べて本城くんの動きはしなやかでまるで大きな猿のようだった。
それから本城くんは着地したその場所で大きなガッツポーズをした。
「なんなんだよ、お前。デカイくせにそのジャンプ力」
ぶつくさ言いながら守りきれなかった方の生徒が私の足元に転がって来たボールを追っかけて来た。
その後ろで、私を見つけた本城くんがにこにこしてピースサインを向けた。
取り巻きが私を振り返る。
「何?」
「誰?」
強張ったままの私に本城くんが不思議そうに近寄って来る。
その時チャイムが鳴った。
これ幸いにと立ち上がる私に、本城くんの足も速くなる。
「ひなたちゃん、来てくれたんだ」
「え?」
「LINE見て来てくれたんじゃないの?」
立ち止まる私たちを舐めるように見つめながら女子生徒たちが中庭を後にした。
そこには私たち2人だけになった。
本城くんに促されて、スマホを開いた。
「中庭でバスケしてるよ。おいでよ」
本城くんは、見てなくても来てくれたからいいやと言って歩き出した。
「何がいいの?」
腕で汗をぬぐいながら、本城くんが私の言葉に振り返った。
「…私、困るよ」
「え?」
本城くんは戸惑ったまま私を見つめていた。
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