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素晴らしい運転テクニックにより、
車は驚きの速さで某一流ホテルへと到着。
ドアマンに鍵を渡したあと向かった先は、
またしてもスイートルームだった。
「しょ、正月なのによく空いてましたね」
「ああ、3時間程度の滞在だからと
ウチの親父が強引に頼んでくれたらしい」
「へっ?ナカダ氏、いつの間に連絡を?」
「…ああ、まあ」
言葉を濁すので、しつこく訊くと
実は常に警護の人間が1人ついていて、
その人が定期的にナカダ氏の父親に
報告を入れているそうだ。
「す、姿は見えませんけど?」
「ああ。俺が普通の生活を望んだから。
常にイカツイ警護が横にいたら変だろ?」
「それでは忍者みたく四六時中隠れて
傍にいるということですか?
ま、ままま、まさか情事の際も?」
あんなことやこんなことも
覗かれているのかと思うと、
耳まで真っ赤に染まる私。
「いや、室内まではついて来ない。
たぶん今回は車内に盗聴器を
仕込んであったんだろうな。
もしかしてリナのマンションにも、
盗聴器を設置してあるかもしれないが、
そこは許してやってくれ。
俺、何度か命を狙われたことが有って。
もうあと数年で兄貴が跡目を継ぐから、
それまでの辛抱なんだけどさ」
その言い方はまるで、
『昨日はカレーを食べたかったんだけど、
なぜかシチューだったんだ。
せっかくトンカツも乗せて、
カツカレーにしたかったのにな』
…的な軽さで、
私は思わずホテルの廊下で膝をつく。
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