第一部 四

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「育ての親を殺すのか?」  俺は博士の眉間に、引き抜いたリボルバーの照準を合わせる。  軍を退役してから射撃を行う機会は極端に減ったが、近場の射撃場などで訓練は私的に行っていた。多少の体力の衰えはあっても、射撃の腕にはまだ自信がある。 「腐っても元軍人だからな。この国の未来のためなら、マッドサイエンティストのひとりやふたりくらい始末してやる。例えそいつが親でも」  正直、義理でも親に銃口を向けるのは抵抗があった。しかし、この男は戦友の抹殺命令に加え、“俺たち”のような存在を再び生み出そうと画策しているのだ。犠牲者を増やすわけにはいかない。 「ずいぶんと血の気が多いな、今年で三十一だろう? もう少し落ち着きを持ったらどう――」 博士の顔の左側、なにもない空間を撃ち抜く。この家は街はずれに建っているから、発砲音に気づかれることはまずない。 「つぎは真ん中だ。毎日続く研究でストレス溜まってるだろ? “ガス抜き”してやる」 「……そう焦るな。これは、イーリスの未来のためでもあるのだ」  相変わらず、どんな脅しにも屈しない博士の肝っ玉の太さには感服する。俺が何の情報も聞き出さずに殺すことはないと知っていての態度だろう。博士は何か重要なことを知っている。 「味方殺しが国の未来につながるだと? よくそんな寝言が言えるな」 「そう言わず、まずは話を聞いてくれ。それからでも判断は遅くないだろう?」  俺は渋々銃をホルスターに収めると、博士は少し安堵したような表情になった。と思うと、俺に悟られまいと考えたのか、すぐさまいつもの顔に戻る。 「……革命戦争で私たちの国がガリムを返り討ちにできたのは、お前たちの活躍によるところが大きい。銃はともかく、戦車はまだ生産も安定していなかったからな。そんな国宝とも言える機密が、今から一週間前、ガリム側に漏れてしまったんだ。図々しくも私を嗅ぎまわっていたスパイは始末したんだが、ガリムの上層部には伝わってしまった」 「最高機密が聞いて呆れる」 「返す言葉もない」
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