第一部 四

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パークス大陸の諸国間では、航空兵器の研究や開発を半永久的に禁止する、ルーベン条約が二十年前に締結されていた。あらゆる場所から見上げても、同じ空が続いている。空は万人が共有しているのだから、そこを侵すことは人類に対する宣戦布告行為であるという大義名分の下、当時のガリムとイーリスが主導で実現させたのだ。今日、空を好きに飛べるのは鳥類だけだ。  航空戦力の研究が滞っていた両国が協議し、周辺諸国から未来の脅威を生まないためという共通の利益の下に生まれた条約のおかげで、ガリムは戦車や装甲車といった陸上兵器に、イーリスは歩兵の戦闘能力向上に関する研究に没頭することができた。  イーリスの研究の果てに生まれた≪五つ子≫俺たち。兵士の運動能力を飛躍的に向上させる計画は、“二ムロデの子供たち”と呼ばれた。二ムロデというのは、とある書物に書かれている、神に挑戦しようとした人間の名前を冠しているらしい。熱量によって自在に変形・収縮する炭素繊維の人工筋肉を、生身の筋肉に織り込み、筋力や速力を上げ、さらに電気信号に干渉し、神経伝達速度をいじることで、高速で動く物体の対処も容易にするという、SFじみたこの計画は、革命戦争中にようやく一応の成功を収めた。ただ、計画のひとりの兵士あたりにかかるコストは莫大で、俺たち五人を生み出して以来、博士は上層部からの厳命で、コスト削減を目標とした研究を継続して行っている。国内では、陸上兵器で先を行くガリムに後れを取るという周囲からの批判が多く見られたようだが、当時の博士が一蹴したとのことだ。現に、その成果で革命戦争を勝利で飾ったのだから、周りからすれば文句のつけようもないだろう。 「なら、なぜそのような提案をする?」 「さっき話した通り、ガリムの上層部どもはお前たちの存在を知っている。もし≪五つ子≫の抹殺ができないなら、奴らはこちらに部隊を送り込むそうだ。お前たちの力なら、歩兵戦程度ならどうにかなるだろう。だが、戦闘で倒すのが困難と判断したら、敵はほかに何を狙うと思う?」  兵器として生きることを決めた俺が、戦闘で死ぬ分にはいい。だが、シオンやレアールが銃弾に倒れる姿など、絶対に見たくはない。
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