第一部 四

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「それに、強硬手段に出た場合は、暗殺作戦にイーリスも極秘裏に参加しろと言われている。条約の締結を控えている状況で、さらに≪五つ子≫の情報を握られているとなっては断ることもできない。お前、下手すれば二国の軍隊を敵に回すことになるぞ」  自分の身体のことは、自分がいちばんよく知っている。だが、あくまでも俺は人。どこからともなく炎を出したり、雷を発生させることなどできない。歩兵数千人と真正面からぶつかって生き残れる可能性など、ゼロに等しいだろう。 「お前たちほどではないが、軍の中でも選りすぐりの精鋭を護衛に付ける。任務遂行中でも、ガリムが約束を守るとは限らないからな」 「……もし断ったら?」 「≪五つ子≫とその周囲の人間は、ガリム-イーリス連合軍によって皆殺し。イーリスは人体実験の情報を公開された挙句に大幅な譲歩を迫られ、相当不利な約束を交わされるだろう。大陸の情勢がガリムに傾く。仮初の平等が子々孫々に渡ってこの大地に根を下ろすのだ」 「ガリムは軍拡をくり返しているんだろう? だったら、脅威に対抗するべく、奴らとの直接対決は考えなかったのか?」 「こっちの世論が黙っていない。十年前はガリムが絶対悪として存在していたから、右派も左派も手を組んで立ち向かえたんだ。今とは状況が違う」  博士は続ける。
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