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「今回の件は、決して表に出ない戦いだ。それに、ガリムは“ただ軍備を整えている”だけ。あちらと戦争をすることになれば、イーリスが平和条約締結を破棄して宣戦布告をしたように取られてしまう。最悪の場合、ガリムが周辺国に呼び掛けて、イーリスを包囲する可能性もある。敗戦国とはいえ、ガリムの力は強大だ。今度は我が国が、革命戦争のときの奴らと同じ立場になるわけだな」
戦いの中でこそ、俺たちは輝くことができた。戦争を生きた英雄たちが、会見を行う為政者よりも多くのスポットライトを浴び、演奏を終えた楽団よりも万雷の拍手を送られた時代も今は昔。俺なりに一般的な生活を営んできたつもりだったが、やはり過去は消せない。死神が、大きな鎌でこの首を切り落とさんと近づいてくる気がした。
こういう時は、因果応報という言葉がふさわしいのだろう。いつか、罪を清算しなくてはならない日が来るとは思っていた。
「答えは明日まで待ってくれないか?」
「わかった。明日の十八時、街の中央公園で会おう。そこで返答を聞く。帰っていいぞ」
まだだ。俺は聞かなければならないことがある。
「博士――」
「そうそう」
玄関を開けながら博士が続けて話す。
「わかっているとは思うが、始末の対象は“全員”だ」
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