第一部 五

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第一部 五

「……寒いな」  博士と話し合った後、俺はリックに事の詳細を電話で伝えた。その際、久しぶりに会って話すこととなり、彼とカニアにある中央公園で待ち合わせる約束を交わした。現地でそのときを待っているのだが、季節は秋なうえ、日も落ちている。加えて十月ともなるとうすら寒い。  リックを待っているあいだにも、博士と交わした言葉が鮮明に呼び起される。あれは遠回しに自殺しろと言っているようなものだ。死ねと言われて衝撃を受けない者などいないだろう。自分で言うのも変だが、革命戦争の功労者に死の宣告を出すとは、さすがに想像できなかった。  革命戦争は、その名の通り戦争の革命とも言えるほどに、戦いに大きな変化をもたらした。銃と呼ばれる強烈な運動エネルギーを持った悪魔の武器。戦車と名付けられた、巨大な砲塔と重厚な装甲を併せ持つ、鋼鉄の巨象。ガリム帝国はいち早くこれらの実用化、生産に成功し、他国への圧力をより一層強化した。銃は昔から存在していたが、短時間に連続発射が可能な自動小銃オートマチックの登場は、世界を驚愕させた。  ガリムを深刻な脅威と改めて認識したイーリス共和国は、他国との同盟締結を急ぎ、包囲網の構築に成功。これに対し、ガリムは我が国を侵略しようとする周辺諸国への正当防衛を謳い、機械化部隊を総動員して侵攻を開始した。  侵略への防衛は、ただの口実に過ぎない。国家の生命線でもある石油を、ガリムはイーリスに求めたのだ。俺たちの国を選んだのは、戦争が起こる数年前から、イーリスの東で石油が噴き出したためだろう。機械化部隊という未知の部隊の出現に、イーリスを含めた周辺諸国は戦々恐々。士気の低下は著しく、たった一国に対して為す術がないという状況は、イーリスのみならずほかの国にも暗い影を落としたことだろう。  イーリスが、手に入れた石油を背景に機械化部隊を増設していった頃、すでに戦況はガリム側に完全に傾いていた。イーリス国土の三分の一を占領され、多くの国民が絶望に打ちひしがれてたとき、≪五つ子≫が投入された。先頭に立って味方を鼓舞しつつ、圧倒的な身体能力で敵を薙ぎ倒していくその様に、多くの兵士が心を打たれ、自分たちも奮起せんと息を吹き返した。高度化された戦争で、古代のように高い技量を持った個人が最前線で率先して暴れるなど荒唐無稽な話だが、ドラマチックだからこそ効果があったのだろう。
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