3人が本棚に入れています
本棚に追加
「悪い。待ったか?」
左からリックが声をかけながら歩いてくる。
「電話でだいたいの内容は聞いたけどよ。どうすんだ? あれを受けたら、お前は――」
「まあ待て。とりあえず乾杯といこう」
俺は懐に隠し持っていた小さな酒瓶をふたつ取り、一方を渡す。
「“革命”か! ずいぶん高い酒を持ってきたもんだ」
「たまにはちょっとした贅沢もしないとな」
互いの瓶で乾杯し、酒を楽しむ。
「……この場所、覚えてるか?」
俺たちが立っている場所についてリックに問う。
「もちろん。≪五つ子≫がイーリス鳳凰勲章を受勲した場所だろ? お前がこっそり教えてくれなかったら、歴史の目撃者にはなれなかったよ」
≪五つ子≫の勲章授与式は、軍内部で極秘に執り行われた。当時は外出制限令が敷かれており、政府の規定した時間外はよほどの理由がない限り一般市民は家から出られなかったのだ。それを利用し、イーリスを一望できるこの中央公園が式典の場に選ばれた。広場に至る並木や芝生は整備されており、中央の噴水は完成当時のまま時間が止まっているかのように、美しく磨き上げられている。
「お前、すげえ緊張してたよな! あの個性的なメンバーを率いていた隊長が蛇に睨まれた蛙みたいにガッチガチになってるものだから、笑いを堪えるのが大変だったぜ」
酒を飲みながらリックは話す。
「そんなとこまで思い出さないでいい」
俺は苦笑いしながら、呆れた口調で返す。
「そういうお前だって、お偉方に見つからないよう、並木の影でビクビクしながら見てただろ? 人のこと言えないだろう」
「気づかれてたのかよ……」
「まるで泥棒だったな。もしバレてお前が俺のことを話した場合、どう言い訳をしたものか必死で考えてたよ」
「抜かせ」
もう慣れた誹謗中傷合戦に、俺たちは思わず声をあげて笑う。
最初のコメントを投稿しよう!