第一部 五

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「お前と最初に会ったときは、お堅そうな奴だと思ったが、ジョーク飛ばしたり笑いを取ろうと馬鹿やったりもして、けっこうユーモアもあって驚いたぜ。人は見かけによらないって学んだぜ」 「お前と最初に会ったときは、おちゃらけた軟派野郎だと思ったが、話せば話すほどまったくその通りだと確信した。性格は顔に出るんだって学んだよ」 「えらく口が回るな。酒が入ってるからか?」 「かもな」  リックとは公私ともに付き合いがある。気兼ねなく接してくれる彼に、俺は酒の席でつい≪五つ子≫のことの一部を口走ったこともあった。だが、歴史の暗部を知っても、リックの態度はなにひとつ変わらなかった。俺にとって戦友であり唯一無二の親友。この先も、冗談を飛ばし、愚痴をこぼしながら、酒を酌み交わしたい。だが、これからも続くと思っていた生活は、博士の一言ではるか遠くの存在になってしまった。 「お前と出会ったのもここだったな」  リックがふとつぶやく。イーリス軍への入隊式は、同軍の伝統で中央公園でやるのが決まりだった。あのとき偶然隣の列にいたのがリックだ。開口一番に、面倒くせえな、と愚痴を垂れてきたのをよく覚えている。 「あの戦争は本当に大変だったな。ガリムの捕虜になると覚悟してた」 「ああ。でも、お前たちのおかげで助かったんだ。」  そう言われると、兵器になることは間違っていなかったんだと、自分を勇気づけることができる。褒められるのは素直にうれしかった。 「本当、お前たちは凄かったなあ。俺は工兵だったからあまり戦闘には関われなかったが、活躍ぶりは耳に届いてた。まさに英雄にふさわしい功績だった」 「まあ、そうでないと造られた意味がないからな」  敵兵士の殺害や捕縛、戦車の撃破や前線基地の破壊。敵の戦力を削ぐため、俺たち≪五つ子≫はそれこそ機械の如くただひたすらに戦い続けたが、苦に感じたことはない。それが国のためになると信じていたからだ。築き上げた屍の山も、鮮血広がる真紅の湖も、祖国を思ってやったこと。恐怖に染まる敵の顔を見ると心地よかった、一目散に逃げる敵を見下すと心が昂った。俺たち≪五つ子≫が強者であることの証明だったからだ。スポーツの試合で活躍して、その反応を見たくて親を見る子供のような気分だった。
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