3人が本棚に入れています
本棚に追加
「けど、てめえがやろうとしてんのは、ただの自殺だ。しかも、味方殺しとかいう大罪のおまけつき。んなふざけた任務があるかよ! 死ぬことがわかっていて、その未来に向かって走るのが怖くないのか?」
こうなることは避けられなかったのかもしれない。博士の家に初めて招かれた、あの時から。もし博士の家に預けられなかったら? シオンともっと早く出会い、そして結婚していたら? あらゆる未来が俺の頭を駆け巡る。だが、安易な妄想は、眼前に立ちふさがる冷たい現実によって消し去られてしまう。
「怖いに決まってるだろ。それこそ、死ぬほど」
死は永眠とも言う。きっと寝ているときの感覚が永遠に続くのだろう。つまり、何もない。なにも感じられない。と思うことすらできない。死後の世界なんて誰も知るわけがないのだから、怖いに決まっている。
「……そうだよな、悪い。……にしても度数の高い酒だ。革命っていくつだったっけ?」
「三十五度くらいだな」
「げえ。いつも炭酸割だったから、どうりできついと思ったわけだ。覚えてたら間違いなく炭酸水買ってきたところだぞ」
「たまにはストレートも悪くないだろ?」
「まあな……、なんて言うと思ったか? “消毒液”飲ませやがって」
互いに声をあげて笑う。こうしてくだらないことができるのも、今日が最後だ。そう思っていると、リックは真面目な顔をしてこちらを向く。
「神様の前では誰だって平等に裁かれるんだろう? どれだけ言い訳を並べ立てても、人を殺しただろと言われたら言い返せねえしな。遅かれ早かれ、人を手にかけた奴らはみな地獄に落ちるんだ」
彼は正面を向きなおして続ける。
「俺もウェントも、ほかの部隊の連中も、みんなお前んとこに行くからよ。まあ、土産話でも期待して待ってろ」
「期待してる」
最初のコメントを投稿しよう!