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リックの声はかすかにだが震えている。涙を隠そうとして前を向いたのだろう。しかし、彼の涙は月光の反射で煌びやかに光っている。友とはいえ、他人のために涙を流してくれるような者と知り合うことができたことだけを見ても、この三十一年の人生は無駄じゃなかったと言える。
この後、結局リックは“消毒液”のまずさに耐えかねて、近くの売店に炭酸水を買いに出かけた。瓶と紙コップをふたつ抱えて戻ってくると、一組を俺に渡す。炭酸割の革命でもう一度乾杯、そして、今日の気温は寒いだの、お気に入りの歌手が出した音楽にいちゃもんをつけるだの、この前上映された映画を語るだの、至極どうでもいいことを話し合う。他愛のない時間がこれほど惜しいと思ったことはない。もっと早く気づいていれば良かった。
「そろそろ戻らないと、レアールとシオンに心配される。」
ふと腕時計を見ると、時間はもう二十一時を越えていた。
「ふたりにはなんて説明するんだ?」
「……出張とでも言うさ。さすがに、真実を話すわけにはいかない」
「酷な話だな」
リックはそう言うが、ふたりに真相を話して悲しませることのほうが、俺には耐えられそうになかった。長くともに暮らしてきた相手が、死ぬための任務に就くと知ったら、止めにくるにちがいない。きっとふたりに説得されたら、気持ちが揺らいでしまう。ふたりの、この国の未来のために、任務を拒否することは避けなくてはならない。
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