第一部 六

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「……来たか」  昨晩リックと話したところに博士は立っていた。護衛を四人連れている。 「すまないが、ふたりだけで話がしたい」  そう言うと、護衛はその場を離れて周囲の警備に向かった。 「今日はよく晴れているな」 「ああ。加えてそよ風が気持ちいい」 博士の言う通り、今日は雲ひとつないほどの快晴ぶり。頭上に広がる群青色の空を見ていると吸い込まれそうになる。数え切れないくらいに見てきたカニアの街並みが、いつも以上に美しく思えた。 「昨日の提案に対する返事を訊こうか」  少しばかりの沈黙を経て、博士が口を開く。 「受けるさ。そもそも、あんな内容の提案をされて断れるわけがないだろう?」 「……そうか。では、約束通りあのふたりに護衛を付ける。もちろん、本人たちには秘密でな」  いつもと変わらぬ、事務的な受け答えはじつに博士らしかった。 「武器は用意してくれるのか?」 「もちろんだ。今回の任務は非正規作戦。非公式とはいえ、イーリス軍上層部ならびにウェントの提案による、れっきとした軍事作戦だからな」 「“一般人”が軍事作戦に参加するのはまずいだろ?」 「その問題を踏まえ、今回特別にお前を軍に復帰させることとなった。階級は、退役したときと同じ少佐だ。当然、各地の軍の施設を利用できる。作戦遂行に役立ててくれ」  軍への復帰や作戦遂行のための支援は想定していたが、階級に関しては意外だった。少佐という名で呼ばれると、なんだかこそばゆい。 「ほら、バッジだ。身体のどこかに着けておけ。でないと現地の連中にしょっぴかれるぞ」  博士から鷹の彫刻が施されたバッジを受け取る。イーリス軍の正式なバッジだ。 「わかってると思うが、非正規作戦であるが故に、もしお前が敵に捕縛されても助けることはできない。仮に反政府勢力がお前の身柄や<五つ子>の情報公開をカードに交渉してこようとも、政府は要求を断固として突っぱね、関与の一切を否定する。交渉の席についてしまえば、そこで終わりだからな」  自分の立場を考えれば、そちらのほうが都合がいい。 「今回の作戦の詳細を教えてくれ」  ここからが本題だ。
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