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俺は、眼下に広がるカニアの街を見下ろしながら、孤児院でともに育った彼らのことを思い浮かべる。
北方の寒い土地に建てられた施設で、すぐそばにある庭で元気よく遊び、よく笑い、よく喧嘩した友人たちを。後にイーリスの英雄として、ガリムにとっての悪魔に生まれ変わる者たちを。本当なら、今ごろ嫌でも毎日顔を合わせ、ともに作戦に従事しているはずだったが、現実には、もう十年も会っていない。
「ロイ・トルステン少佐。お前の英断は、イーリス繁栄の礎として、私たちが語り継いでいく」
「いきなり真面目なこと言われると調子狂うな」
「お前に、この国の未来を託す」
そう言い終えた瞬間、広場に一台の車が到着した。
「それと、彼女のこともな」
「彼女?」
車から出てきたのは、二十歳前後くらいの女性だった。金色の長い髪は後頭部にまとめられ、身体は細めだが体格はよく、服の上からでも鍛えられているのがわかる。イーリス軍の制服を着ているが、歩き方などの動きにいちいち気品がある。明らかにまとう空気が軍人のそれではない。
「ひとつ伝え忘れていることがあってな」
わざとらしい口調で博士が話す。
「お前の任務を補助する者を付ける。男のひとり旅は退屈だろう?」
彼女は俺と博士の前まで来ると、まず博士に会釈をし、つぎに俺のほうを向く。
「セレーナ・アデライードと申します。このたび、あなたの作戦に同行させていただくこととなりました。革命戦争の英雄とともに戦えること、とても誇りに思います」
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